BEFORE
 

同じ頃、緋国王フランキーは藍国の国境を越えていた。

大河蒼江のほとりにある城塞に軍を寄せ、入城する。

そして



 「緋のフランキーだ!」

 「ようこそ、緋国王。藍国女王ロビンです。」



ロビンは城門までフランキーを出迎えた。

しなやかな体を、サンジと同じ銀の鎧に身を包み、篭手で覆われた腕から伸びた白い手が差し出される。

真っ赤な鎧姿のフランキーも手甲を取り、武骨な堅い手を差し伸べてロビンの手を握った。



 「逢うのは初めてだな。」

 「ええ、そうですわね。ご即位のお祝いから申し上げるべきかしら?」

 「はっはっは!もらっとくぜ。」

 「ありがとうございます。陛下自らの御出馬。感謝いたします。」

 「そっちの礼は、耳たぶ野郎を追い返した後にしろや。状況は?」



話が早い。

ロビンはにっこり笑い



 「では、こちらへ。」



優美な仕種で、ロビンは自ら先に立って中へとフランキーを案内する。

歩きながらフランキーは、言った。



 「ウチの弟が世話になったな。」

 「…エースの事ですか?」

 「ああ。」

 「…あなたの弟だったのね。それなら、色々とつじつまが合うわ。気がつかなかったこちらがマヌケね。

 でも、私の弟に、本当によくしてくれたわ。例えどんな思惑があったにせよ。あの子はあなたの弟を慕っていました。

 あの子がここまで大きくなれたのは、エースのおかげ。」



フランキーが言葉を飾らず話すので、ロビンもつられて、友達へ話すように答える。



 「…まぁ、許してやってくれ。あいつはあいつで、おれ達の末っ子の為にしたことだ。多少勝手だったろうが。」

 「末っ子?…ルフィ?」

 「ああ。」



ロビンには、話さねばならない。



 「ウチの末っ子は、紅天竜神の御子だ。」

 「…え…?」

 「公表してねぇからな。神殿にも届けなかった。船大工の家に生まれていいモンでもねぇからな。隠したよ。必死で。

 一番必死だったのはエースだ。そのためにしたくもねぇ修行をして、ルフィから火の力を剥ぎとった。…期限付きだがな。」

 「………。」

 「この国に、水の力があるのはわかってた。だから欲しかったんだ。おれ達の弟の為に。弟に、人並みの人生送らせるために。

 おれが王位を受けたのは、ルフィの存在の正当性を示したかったってのも理由のひとつだ。

 それに、碧に水天、藍に蒼天。オマケに緋に紅天じゃあよ、厄介ごとの火種になりかねねぇ。」

 「ええ、本当に…。」



立ち止まり、目を伏せるロビンにフランキーは



 「逢っちまったもんはもう、どうにもならねぇ。

 結果はこうだが、いちいち振り返って『ああすりゃよかった。』『こうすりゃよかった。』と、グジグジすんのァ性に合わねェんでな。

 スーパーにイカレてんのは、お前ェの弟と碧の皇子の方だと開き直れ。今はともかく、この戦を乗り越える事だけだ。」

 「……ええ。」



おかしな男。



心の中でつぶやいて、ロビンは笑った。



 「これから私は国境へ向かうつもりです。あなたは?」

 「行くならおれもだ。耳たぶに、ほんのわずかでも、人のウチの庭に足を踏み入れさせたくねぇ。」

 「わかったわ。じゃあ、行きましょう。」

 「なぁ、ニコ・ロビン。」

 「はい?」

 「この戦が終わったら、お前ェ、どうする?」



フランキーの問いには主語がない。

だが、ロビンはフランキーを見上げ、その目を見つめて答える。



 「守るわ。」



にやり、と、フランキーは笑った。



 「そうか。まぁ、悪かねェ。」



そして



 「なら、おれも味方してやるよ。」



ロビンは驚いて、思わず『え?』と声を上げた。



 「過去、何が理由だったかまではおれは知らねェ。

 けどな、そういうもんを押さえつけるのが一番難しい。はっきり言って、面倒臭ェ。」



ロビンは笑って



 「うふふ…そんなことでは、いつになっても妃を娶ることはできなくてよ?」

 「おれはいいんだ、おれは。もう、跡取りも決まったしよ。

 全部終わったら、ルフィとエースに全部押し付けて、おれは元の船大工に戻る。」

 「まあ!」



ロビンは目を丸くしてフランキーを見た。



 「一国の王が、その責務を放棄するの?」

 「やるだけのことをやって、より相応しいヤツに譲る。おれの国では当たり前のことだ。ここじゃあ違うのか?」

 「…いいえ。」

 「そうだろう?お前さんも、いずれは弟に譲るか、自分の子に譲るか、だ。

 まぁ、弟が子供を生むことは望めねェだろうから、自分が生むしかねェな。お前さんの方こそ、早い所婿を探しな。」

 「まあ、矛先がこっちに向いてしまったわ。」



笑って、だがロビンは少し悲しげな声で言う。



 「…全ての国が残ったら、の話ね。」



と、フランキーは少し怒った声で



 「不吉な方向に考えを向けるのは止めとけ。」

 「!……ええ、そうね。ごめんなさい。」



叱られるのは久しぶりだ。



ロビンはわずかに微笑んだ。



 「でも、こんなオバサンの所に来てくれる人がいるかしら?」

 「来てやってもいいぜ?船大工の亭主でよけりゃあよ。」

















小気味良い言葉のキャッチボールが、止まった。

















しばらくの間の後、互いに同時に顔を見合わせる。



「冗談だ。」と、言うと思った。

「冗談ね。」と、言うと思った。



言わなかった。





その一瞬の間。





フランキーは30も半ばに差し掛かろうというのに、ロビンもそこに手が届こうという年齢なのに。

まるで小僧と小娘のような、一瞬の鼓動。



ぼっ!という音が聞こえるようだった。

フランキーが慌てて口を開こうとした時



 「無礼者――っ!!」



相手が王だろうが皇子だろうが、カリファはロビンとサンジの為には容赦がない。

飛んできた蹴りを、もろに食らって吹き飛んだ。



 「何たる無礼!何たるセクハラ!!例え、緋国王といえど許せませんっっ!!」



フランキーは鼻血を流して倒れ伏す。



 「…ス、スーパーだぜ…。」



ロビンはかすかに頬を染めて笑った。



 「カリファ、何か言いたいことがあったのではないの?」

 「はっ!?申し訳ございません!!」



カリファは眼鏡を直し



 「碧皇帝エネルの本陣が、潮街道の国境に動き始めたとの事。」

 「動いたか!」



フランキーが叫ぶ。



 「急ぎましょう!」

 「おう!…“野猿”いるか!?」



フランキーの声に、いずこからとも鳴く声が返る。



 「御前に。」



その声にカリファはぎょっとしたが、ロビンは笑った。



 「いいか?これからウチの兵どもに指示を与える。うまく動けよ。」

 「はっ!」





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              (2008/4/18)

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