BEFORE
 

結果。

エネルは一旦兵を退いた。

退いたといっても、まだ軍は国境の向こうにある。



ゾロに従った兵が3000あまり。

脱走した兵がどれほどかはわからないが、まだエネルには5000以上の兵がある。

ここに、各国へ向った軍が合流したら、2万近くに膨れ上がるだろう。

本当はその前にケリをつけたい。



国境の草原をはさみ、見下ろすなだらかな山の上に、ナミの率いる燈国軍が陣を構えた。

左翼に、フランキー率いる緋国軍。

右翼に、分裂し、ゾロについた碧国軍。

その後方にロビンの藍国軍。

今、王族たちは碧国軍の本陣に集っていた。

軍議と、彼らがそこに身を置くことで、碧の兵へゾロの即位の正当性を示す目的があった。

軍議の席だが、幕ひとつ隔てた向こうでウソップが寝台の上で横になっている。

ゾロが、側から離さなかった。

軍をまとめていたナミが、ゾロへ言う。



 「あんたに逢いたいって、碧の将校が来ているんだけど。会う?」

 「あの中に将軍がいたのか?……!!…まさか…!!?」



と、ゾロが言った時だった。



 「あぁ〜〜〜ん!会いたかったわ〜〜〜〜ゾロちゃぁ〜〜〜ん!アチシの皇子サマ――――ッ!!」



低い男の濁声のくせに甲高い悲鳴と共に、背の高い男が飛び込んでくるやゾロに抱きついた。



 「…な…?」



あっけに取られ、サンジは青い目を呆然と見開く。

それは、そこに居合わせたルフィやナミ達も同様だった。

抱きつかれた当のゾロは、抱きしめるその力にむせながら



 「な…!!ボン・クレー!!?やっぱりてめェかァ!!?」

 「そぅよぉ〜〜〜アチシよぉ〜〜〜う!!お久しぶりねぃ!ん〜〜〜〜〜ま゛っ!!」



ゾロの頬に真っ赤な口紅がつく。



 「何?こいつ…。」

 「…さぁ?」



ナミがボソッと言い、ロビンが答えて首をかしげる。

ボン・クレーと呼ばれた碧の将は、ゾロを抱きしめたまま



 「んもぉ〜う、昼間のアンタ、ホンット最高ぉ〜にカッコよかったわよ〜う!!さすがはアチシの見込んだ男ね〜ぃ!!」

 「何でてめェがここにいるんだよ!?てか、いい加減に離せ!!」



状況をつかみかねたサンジの眉間に、わずかにシワが寄るのをゾロは見た。



 「あら、ヤダ!あんた、アチシが何者か忘れたの〜う?」

 「何もんだ?なァ、ゾロ、こいつ、おもしれーな!!」



ルフィが、目を輝かせる。



 「あら!まぁ!この子も可愛いっ!!」

 「ちょっとォ!なんなのあんた!?」

 「まぁっ!アナタもか〜〜わいい〜〜!アチシ好みよ〜う!チューしちゃいたい!」

 「きゃーっ!!」

 「いい加減にしろ!!このオカマ野郎!!」



ゾロが、青筋を立てて蹴りを繰り出す。

が



 「え!?」

 「…ちっ…。」

 「んっふっふっふ。まだまだ、あ〜ま〜い〜わ〜ね〜ぃ。」



ゾロの蹴りを止めてしまった。



 「剣の腕は中々だけど、体術の方は相変わらずからっきしねぃ。」

 「うっせぇよ。」

 「ところで鼻ちゃんは?鼻ちゃんは大丈夫なの〜う?」

 「…目は覚めねェけどな…命は。」



と、ゾロの背中で低い声が響く。



 「…で、ゾロ?」



サンジ。

ビクンと、ゾロの体が震える。



 「そろそろご紹介いただけないか?コチラのお兄さんの。」

 「ヤーね!お兄さんだなんて!アチシはオ・カ・マ!あんたが蒼天の御子チャンねぃ!?

 ホ〜ント、噂どおり、キレイなコ〜〜〜〜!惚れてもいいかしらん?」

 「ダメだ!!」



ゾロが叫ぶ。



 「ゾロぉ?あんた、やっぱりメンクイだったのねぃっ!きぃ〜っ!くやしぃーっ!!



レースのついたハンカチを咥えて、歯軋りする男、もといオカマに



 「で、誰なの?」



今度はロビンが尋ねた。



 「…おれの体術の師匠…。で、碧の五将軍のひとり…ボン・クレーだ。」

 「碧五将軍!?」



碧の将軍といえば、配下は一万を数える。

並ぶ者は、それぞれの国へ向った将軍たち、サトリ・オーム・シュラ・ゲダツだ。



 「てめェが、エネルの本軍にいたとはな。」

 「仕方ないじゃないの〜う。命令だもの。5将軍の中で、唯一エネルの思い通りにならない将ですもんね、アチシ!

 でも、こんなことになるなんて…やっぱり運命なのねぃ。

 でも、アンタが宣旨を出したのなら、アチシは即!駆けつけるつもりでいたんだから!!

 夢が叶ったわよ〜う。ところで、触っていい?」



サンジの肩の辺りで、手を「ワキワキ」させるボン・クレー。



 「触んな!余計なもんがつく!!」

 「何よう!ケチねぃ!!冗〜談じゃないわよ〜う!!アンタ、それが師に対する態度なワケ!?上等じゃ、クラァ!表出ろやぁ!!」



ナミがロビンにぽつりと言う。



 「で?軍議は?」

 「もう少し待ちましょ?何だか面白いわ。」

 「…もぉ…。」



その時、幕の向こうから小さな呻き声がした。

そして



 「……何かさっきから…聞きたくねェ声が聞こえる…夢か…?…夢だな……寝なおそ…。」



ウソップが目覚めた。

ゾロより早く、ルフィが幕を払って寝台へ寄り



 「オイ、ウソップ起きろ!面白れぇことになってんぞ。」

 「あー…?」



サンジも



 「ウソップ。」

 「あー…。」



サンジの顔を見て、ウソップはにっこりと笑い



 「……天使だー…よかったー…おれ、天国へ行けたんだー…ありがとー…カミサマー…。」

 「おい、ウソップ!」



ゾロが、ウソップの鼻を思いっきり掴む。



 「…あれ?…ゾロ…?」

 「おう、おれだ!ウソップ!!」

 「ゾロ……ゾロ……。」



と、ウソップの目に光が戻った。



 「ゾロ!!宣旨は!?エネルは!?」



叫んで、がばっと身を起こそうとしたが



 「痛ェ…!!」

 「無茶するな。雷に打たれたんだぞ。」

 「…あ…ああ、そうだった…。で…?宣旨は…?宣旨はしたのか!?」



ゾロはうなずき



 「ああ、した。」

 「……よかった……。」



満足げに笑い、枕に深く頭を沈め、ウソップは大きく息をつく。

ゾロが、感慨深げにウソップに手を差し伸べようとした時、ボン・クレーがその肩口からひょっこりとウソップを覗き込み



 「鼻ちゃ〜ん!お久しぶりね〜い!!」

 「げっ!?」



驚く時、目玉が飛び出るって本当だな、とルフィは思った。



 「ボボボボボボボボボボーボボーボボ、ボン・クレーっ!?」

 「いやねぃ、アチシ、鼻毛真拳は使わないわよ〜う。」



はい?



しかし、ウソップの反応からしても、この男がかなりの人物であることが窺える。

色々な意味で。



 「アンタ、イカしてたわよ〜う、鼻ちゃん!」



親指を立てて、ボン・クレーは歯茎まで見せて笑った。



 「アンタの啖呵、最高だったわん。チューしてあげる!」

 「ややややややややや!!!」

 「…この際だから、ここにいる皆さんに言っちゃおうかしら。」



ボン・クレーの声が、急に真剣になった。



 「ゾロの皇帝宣旨、これは碧をひっくり返す大事よ。」



ロビンがうなずいた。



 「でも、エネルにあんな力があるなんて、夢にも思わなかったわよ。」

 「………。」

 「あの時アンタが言った通りなのよ。アチシ達は、自分の家の中でも息を潜めて暮らさなきゃならない。

 エネルの悪口を一言でも言ったら、5歳の子供でさえ捕まるわ。

 逆らったが最後、殺された皇子達と同じメに遭うって、みんなわかってるもの。…でも、不思議だと思ったのよ〜う。

 前皇帝が死んで、その後ジャマな兄弟を殺し始めた時、

 何で、大臣や神官達がエネルに逆らわなかったのかがわからなかったのよねぃ。」

 「…それが、あの『混沌』の力のせいだとすれば、うなずけるな。」

 「アンタ、エネルが『混沌の御子』だなんて本気で信じる?」



ボン・クレーが言った。



 「……信じたくは無ェ。だが、あの力は本物だ。」

 「そーよ!そーなの!わからないのはそこなのよ!!『混沌の御子』なんて、聞いたことないものねぃ。

 ちょっと、ここにいる誰か。こんだけ王族がいるんだから、聞きかじったってことは無いの〜う?」



ナミが首を振った。

ロビンも首を振る。

ルフィも。

サンジも。



 「あら?フランキーは?」



ナミが尋ねた。

そういえばフランキーが幕内にいない。

頬に手を当ててロビンが答える。



 「さっき、すぐ戻るって言って出ていったけれど…。」



すると



 「痛ェ、痛ェ!わかった!逃げないから離せって!!フランキー!!」

 「信用できねェ!」



同時に、幕が払われ、現れたのはフランキーと



 「エース!!」



姿を見て、ぱぁっと顔をほころばせてルフィが駆け寄り、エースを抱きしめる。

エースも、笑顔でルフィを抱きしめ返し



 「よぉ、大きくなったな。」

 「当たり前だ!どれだけ会ってねェと思ってんだよ!?」

 「あはは…そうだよな。悪ィ悪ィ。」



嬉しそうに、ルフィがエースの胸に顔を押し当てる。

何年も会えなくても、やはりエースは『大好きな兄ちゃん』だ。



 「………。」



兄弟再会の光景に、ナミより複雑な顔をしたのはサンジだった。

その横顔を、ゾロは見逃さない。





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              (2008/5/1)

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