BEFORE
 

時を惜しむかのように、達してはまた求め、悦びをいざない、体を入れ替え、形を変えながら高みへ駆け上る。

声を殺すこともせず、ただ望むままに抱き合い、与え合って、昇り詰めあった。



 「…ゾロ…ゾロ…あ…そこ…そこ…いい…。」

 「…ここか…?こっちは…?」

 「んっ…!ああ…っ!!」



肌を合わせるだけで、濡れた音がする。

いたる所が体液に濡れて、光っている。



 「…サンジ…後ろ向け…もっと深く挿れてェ…。」

 「…あ…あ…ひ…う…っくぅ…。」

 「痛ェか?痛ェなら…。」

 「止めるな…!…このまま…っ!」



辛くないはずは無いと、わずかな理性ではわかっている。

だが、労わろうとすると、サンジ自身が激しく拒む。

拒んで、さらに強く抱くことを求めてくる。



 「…もっと…もっと強く…もっと抱いて…。」



請われる度に、ゾロの力が漲ってくる。

何度達したか、など数えていないが、半身が濡れそぼるほどに幾度も達しながら、力が尽きない。まったく衰えない。

それどころか、却って強くなっているような気がする。



何故?



理性の片隅で、ゾロがわずかに思考すると



 「ゾロ…。」



サンジの指が、ゾロの頬を捉えて唇を塞ぐ。



 「…もっと…ゾロ…もっと…。」

 「…サンジ…?」



嫌うなと、軽蔑するなとサンジは言った。

嫌いになる事も、軽蔑する事もあろうはずはない。

むしろ、自分の為に淫らになるサンジが愛しくてたまらない。

愛しい相手が、自分の行為で震え、声を挙げ、身悶えする姿を、誰が軽蔑するだろう。

初めて抱いた昨夜、まるで少女のようにたおやかで、触れることが罪悪のように清しく美しかった。

今は、自身が言ったように、娼婦のように淫らに、艶めいて濡れている。

そのヤヌスのように違う顔さえ、惑い溺れる。



その惑いに、全身を浸した絶えなる至福。



なのに



わずかに首をもたげる、不安。



 「サンジ…。」



優しく抱きしめ、律動を止める。

と、サンジは大きく息を吐き、喘ぐように



 「…ゾロ…どうした…?止めるなよ…なぁ…。」

 「…サンジ…?」

 「…ゾロ…動いて…。」



正面から向かい合い、ゾロのものを受け入れたサンジは、ゆっくりと腰を押し付けて自ら動こうとした。

だが、ゾロはそれを止め



 「サンジ。」

 「………。」

 「…どうした…?」



答えは無い。

前髪に隠れた顔、ゾロはそれを払った。

だが、サンジは静かに微笑んでいるだけだ。



 「…ゾロ…このままイって…おれの中で…。」

 「………。」



熱い襞に抱かれたそれは、猛り、達する事を求めている。

それを堪えるゆとりは無い。



躊躇う気持ちはあるのに、突き動かすことを止めることはできなかった。



 「あああっ!!」



声。

悲鳴のようにも聞こえる。

だが



 「ゾロ…!ああ…ああ…っ!!ゾロォっ!!」

 「…っ…クソ…っ!!」

 「…全部…全部お前のものだから…おれの全部…お前のものだから…!」













どれだけ長く生きられるかじゃない。どれだけ熱く、激しく、生き抜けるかが大事なんだ。











ふと、耳に甦るサンジの言葉。



 「サンジ…?」

 「…あ…イク…ああ…っ!」



自分の体にすがりつき、震える腕に力が篭る。

背中に立てた爪が食い込む。



 「ああ―――!!…ゾロ…!!」



達して、その証を体内に注ぎ込んだのは自分の方だ。

なのに、何かがゾロの中へ注がれて来る。

それを、ゾロははっきりと悟った。



 「サンジ!?」

 「………。」



腕の中で力尽き、サンジの体は崩れ落ちた。

まるで、人形のように。



 「サンジ!!」



抱きしめ、揺さぶる。

絶頂に、意識を失うことはある。

だが、これはそうじゃない。



 「…ん…。」



ピクリ、と体が動いた。



 「サンジ!サンジ!?」



顔を上向かせ、腕に抱きながら軽く頬を叩く。



 「…ゾ…ロ…?」

 「………。」



ゾロを見て、サンジは微笑んだ。

恍惚とした表情。

のろり、白い2本の腕があがり、ゾロの首に巻きついた。



 「…ゾロ…。」

 「………サンジ。」

 「…ん…?」

 「…今のは…何だ…?」

 「………。」



答えは無かった。

腕の中で、ゾロの胸に頬を押し当て、全身を預けて、サンジは微笑んでいるだけだ。



 「サンジ!」

 「…愛してるよ…。」

 「………。」

 「愛してる…。」

 「サンジ…。」

 「…このまま…眠っていいか…?」



抱く手に、力をこめる。

それ以上問う事ができなかった。



不安が、恐怖に変わるような気がする。



しかし



 「サンジ、まだ寝るな。」

 「…もう…ダメ…。」

 「答えろ。“あれ”は一体なんだ!?」

 「………。」

 「サンジ!!」



答えは無かった。



本当に、サンジは眠っていた。



顔が、少し青ざめているような気がする。



 「………。」



抱きしめる。



腕の中の愛しい体を。



それしか、ゾロにできることが無い。



喜びであるはずなのに、あの黒雲のようにわき起こるこの不安は何だ?



 「サンジ。」



金の髪を撫でる。

今は閉ざされた青い瞳に口付ける。

そして



 「愛してるよ…。」



愛の言葉を囁く声音のはずなのに、どこか切なく苦しい。























草原は、白いもやに包まれていた。

夜明け前の、どこか夕暮れの黄昏にも似た灰色の闇。

月は既に西の空に失われ、もやの向こうにおぼろげな太陽が顔を出し初めていた。



昨夜の軍議で、この戦の総大将をフランキーが勤める事になった。

そのフランキーの陣を中心に、各国の陣が大鳥の羽のように構えられている。

夜明け前に、野猿が報告して来た。

各国の国境へ向った、碧の4将軍が、こちらへ向かっているとの報せだ。

そして、燈のアイスバーグの国王軍も、兵をそのままこちらへ移動させているとの報告も、燈の兵によってもたらされた。



兵の数にもう不足は無い。

だが、総司令官であるエネル自身のあの力。



 「どうやって封じたらいいものか…ってとこだな。」



フランキーが、傍らに立つエースに言った。



 「…だがあいつ、夕べは仕掛けてこなかったろう?

 …あの力なら、昼夜問わず、攻撃してくることは可能だぜ?なのに、夕べは大人しかった。」



サンジの力で、一瞬は命を脅かされる恐怖を味わったとしても、それを逃れれば…。



 「…人間があの力を操る。尋常な体力じゃ保たねぇだろ?

 …多分、あれをやるのはあいつに取っても命を削る行為なんだと思うぜ。」

 「だああ!もう、ワケがわからねぇな!!」



フランキーは、まだ兜を着けていない頭をかきむしった。



 「訳がわからなくても、あいつを倒せば全部終わる。」

 「エース。」

 「…運が良けりゃ、この戦で全部使いきれるかもな。」



言って、エースは掌に小さな炎をともす。



 「エース!てめェ、本当に死ぬなよ!?」

 「死なねぇって。死んだらそれこそ、本当にルフィに嫌われる。」

 「おれは、これが終わったら緋をルフィに預けるつもりなんだ。お前、助けてやれよ?」

 「おいおい。丸投げする気かよ?」

 「全て精算する気があるのなら、態度で示せ。」

 「…で?アンタはどうする気だ?フランキー。」

 「おれは元の船大工に戻る。」

 「おいおいおいおい。」

 「もう決めた。但し、緋ではなく、藍でな。」

 「藍?」

 「欲しい女ができた。そいつはきっと、自分の国から離れねェだろうからよ。おれが行くしかねェだろ?」

 「……齢34にして初恋かよ?」



エースは笑った。

相手に心当たりがある。

そして、その女性なら、この力強く優しい兄に相応しい。



 「その初恋が、実らなかったヤツに言われる筋合いはねェよ。」

 「アンタは実るのか?」

 「スーパーにな!」



フランキーは笑った。

豪快な王の笑いは、兵を安堵させ奮い立たせる。



 「さァお前ら!!夜が明けるぞ!!この戦に勝ちゃ帰れるからな!!勝ったら藍も燈も碧もおれ達に味方してくれる。

 国は潤うぞ!女房子供に、自慢できる様にしっかりやれ!」



おお!と、声が挙がった。



そのどよめきが、翼の果てにも伝わっていく。



 「賑やかね、緋軍は。」



ロビンが言った。

すでに甲冑に身を包み、馬上にある。

今、その緋軍の総司令官とその弟が、どんな会話をしていたかなど知らない。



 「強い王である事は認めますけれど、ガサツに過ぎます。セクハラですわ。」



眼鏡をクイっと上げて、不機嫌にカリファが言った。

ふふふ、とロビンはわずかに頬を染めて笑った。



 「…結局、殿下はお戻りになりませんでしたわね。」

 「…もう、私の手は必要ないのでしょう?少し寂しいけれど…喜ぶべき事ね…。」

 「陛下…。」

 「なぁに?」

 「わたくし、なんだか希望が見えるような気がしてまいりました。

 おかしいですわ。エネルのあんな力を見せ付けられて、勝てる戦とは思えませんのに。」

 「そうね…そんな気がするわ。」



緋軍が鬨の声を挙げた頃、燈軍は、アイスバーグ率いる国王軍の斥候が到着し、やはり歓声を挙げていた。

しかし、その盛り上がりを見つめながら、ナミの隣に立つルフィの表情は変わらず固い。

昨夜、緋の幕へ戻るように言ったのだが、ルフィは拒んだ。

散歩から戻った後、ずっと幕内から動かなかったが、眠ってもいないようだ。



 「ルフィ。」

 「…なんだ?」

 「今のうちに、フランキーに会ってきて。」

 「必要ねェ。」

 「必要ないって…。」



ルフィは、小さく息をついて



 「おれ、やっぱりこだわるよ。」

 「…そうね…。」

 「けど、その上で、さーっとつき抜けておく事にした。」

 「え?」



つき抜けるって?



 「だってよ。もう全部終わっちまったことだ。」

 「………。」

 「納得できなくても、悲しくても寂しくても、フランキーやエースを嫌っても怒っても、起っちまった事は元に戻らねェ。

 …母ちゃんも…生き還らねェ。」

 「………。」

 「だったら、これからどうするかって事を考える以外に残らねェじゃねェか。」

 「………。」

 「そうだろ?」



ナミは、自分を見つめるルフィへ穏やかな声で言う。



 「大好きよ、ルフィ。」



告げて、ナミの頬に一筋涙が落ちる。



 「あんたに、出逢えて…良かった。」

 「………。」

 「…あたしが、シワだらけのおばあちゃんになっても一緒にいて…。」

 「………。」



ルフィは、顔を覆って泣くナミに近づき、そっと腕に抱きしめた。



 「心配させてごめん、ナミ。」

 「………。」



ナミは首を横に振る。



 「変だな。」

 「…何が…?」

 「わかってる事なのに、今すげぇ『生きててよかった』って思ってるんだ。おれ。」



頬を包まれ、互いの額を合わせながら、ナミも



 「…うん…。」

 「………。」

 「あたしも…。」



だから



 「これが終わったら、まっすぐに緋へ行こうな?」

 「うん…。」



と、その時



 「ごほっ!ンン…ゴホゴホゴホっ!」



慌てて、ナミは思わずルフィをつき飛ばす。

その強さたるや、弾かれて、3メートルほど先の木の幹に激突し、枝がはらはらと落ちるほどだった。



 「きゃーっ!ルフィ!ごめーん!!」

 「ンマー、仲が良くて結構なことだ。」

 「おとーさま!?ちっ!ちがうの!違うのよ、これは!!」



アイスバーグ。



再び、燈の軍が沸いた。











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              (2008/5/8)

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