BEFORE
同じ頃、連合軍の総司令であるフランキーは、伝令からゾロとサンジがエネルに到達したことを知らされた。
そして、戦場を見下ろす小高い丘の上から、状況を知らせてくる野猿たちから、エネル軍がエネルの本隊から完全に分断されたことも知る。
フランキーは、ナミから預かった地図を開き、
「ニコ・ロビンに、手筈通り谷の出口を塞げと伝えろ!アイスバーグへ合図を送れ!!それから、エース!いるか!?」
「はい、陛下。御前に。」
いつもいつの間にか姿を消してしまう弟が、珍しく側にいたので、フランキーはホッと息をつく。
そして
「茶化すな!!」
「はいはい。で?何をする?」
「燈軍が谷の出口へ碧の一軍を追い込む。すでにニコ・ロビンが向っているはずだ。追い込んだら、その背後からこの辺りの草原に火を放って欲しい。
退路を断つ。出来るだけ、人死にを出したくねェ。」
「わかった…で。追い込む軍は、誰の軍だ?」
「この状況ならオームだな。」
「するってぇと…あのウソップってヤツの親父のいる軍だな。わかった。うまくやる。」
「ああ、エース。」
「ん?」
「今日が誕生日だってのはわかってんだろうな?」
「…ああ。けど、今、ここにルフィはいねェ。終わってからだ。終わってから。」
「何度も言うが、本当に!!」
「死なねェって。クドイぜ?」
「クドく言っても聞かねェのがテメェだからだ!!大体てめェは、あの時もこの時も…あれもこれも…!!
全部一人で勝手に決めて、一人で背負いやがって!おれはそんなに頼りねェ兄か!?」
「頼りにしてるよ。頼りにしてるから、おれはずっと好きにさせてもらってたんじゃねェか。
その分は、しっかり働くからさ、もういい加減勘弁しろよ。ホントにしつけぇ。」
まだ、フランキーは何かを叫んでる。
本当に、これじゃ死ぬに死ねない。
まだ、生きてみようか。
それも、悪くはないかもしれない。
「ナミ!フランキーからの合図だ!」
本軍からの狼煙を見て、アイスバーグが叫んだ。
もう、祈る事は祈った。
後は、自分達を信じるしかない。
「行くわ!お父さま!!」
「…うむ!」
「3軍!移動!!谷の狭道へ、エネル軍を追い込む!!」
「おおう!!」
軍を分断させ、アイスバーグは即座に陣立てを変えた。
そして、
「やれやれ、婿殿はどこへ行った?ンマー、これでは考え直してしまうぞ。」
言いながら、口元には笑みがある。
碧の軍の全てを統率するエネルが孤立した今、エネルの軍はもはや規律を失い始めていた。
4人の将軍たちもエネルとの連絡を断たれ、自力で状況を図るしかない。
その戸惑いの隙を連合軍は突き破り、押し寄せていった。
戦況が不利に傾くと、中には武器を捨てて投降、逃亡するものも現れ始める。
「行けェ!!一気に押せェ!!」
戦場の混乱は、孤立する空間の中の3人にも伝わる。
「…足りぬ…まだ足りぬ…新しい世界に弱き者は要らぬ。この世に強き者は神のみ!神は今こそ、愚かな弱き者に裁きを下す!!」
「よせ!エネル!!」
「…くっ…!!」
「サンジ!お前もやめろ!!これ以上力を使うな!!」
「使うがよいわ!力が尽きれば命も消える!!器も力も表裏一体!!互いがなくては滅ぶだけだ!!
そなたが死ねば、残されたお前はどれほどに悶え苦しむのだろうな!?ゾロよ!!」
「……!!」
「万雷!!」
再び、黒雲が空に現れる。
渦を巻き、風を呼び、荒れ狂う様は今までの比ではなかった。
「エネル!!」
「やめろ!!」
ゾロが剣を振りかぶる。
サンジが走り出す。
「吾は…吾こそが…!!」
エネルが、腕を振り下ろそうとした瞬間だった。
天に突き上げた腕が、凍りついたかのように動かなくなった。
「…な…に…!?」
動かない。
ピクとも動かすことができない。
「…う…あ…?」
体が震える。
おかしい、力が抜けていく。
「サンジ!?」
「…違う、おれじゃない!」
エネルの全身が震え、肩がガクリと下がる。
わななく唇からは荒い息が漏れる。
そして
「やらぬ…やらぬ…!バカな…!!」
両肩を掴み、エネルは必死で何かに抗った。
「…お…おおお!!…うおおおおっ!!…バカな!!そんな事が!!」
叫ぶエネルの目が、サンジを見た。
「…バカな…お前は確かに…何故…?何故だぁあっ!?」
エネルの目が、真っ赤に染まる。
顔はどす黒いほどに青ざめ、口から鮮血が吹き出す。
「エネル…!?」
「何が起きた!?」
黒雲が荒れ狂い始める。
まるで巨大な象が天でのたうつように、うねり、断末魔のような悲鳴を上げる。
衝突する雲の塊が、電撃を発生させ、その衝撃と光は当然の様に地上へと降り注ぐ。
「うわあああっ!!」
「助けてくれ!!」
「怒りだ…天の怒りだ!!」
敵も味方もなく、兵士等は阿鼻叫喚の声を上げて逃げ惑い始めた。
碧への街道に通じる狭い谷の出口へ、狂った軍勢が殺到する。
それを見たナミが叫んだ。
「追撃中止!!止まって!!全軍止まれ!!」
このまま突っ込んだら、狭い谷間で団子状になり圧されてしまう。
その動きを見たエースも
「散れ!!草原から離れろ!!谷合の岩壁にへばりつけ!!直撃されるぞ!!」
「止まれ!下がれ!!軍を引け!!」
「尋常じゃねェ!何だぁ!?ありゃあ!!」
アイスバーグと、ロビンとフランキーもそれぞれに叫ぶ。
碧軍もまた混乱の中、只逃れることしか頭に無い。
味方のはずのエネルの力が、見境もなく襲いかかり、隣にいる仲間まで倒していくのだ。
「ダメ…!碧軍が止まらない!!谷へ押し寄せるわ!!」
ナミが悲鳴を上げる。
阿鼻叫喚の地獄絵図が、眼前で繰り広げられる。
一方で、ロビンも叫んでいた。
「止まりなさい!!止まりなさい!!」
だが、怒涛の様に、狂った兵士等が逃げ場を求めて谷の狭い入り口へ殺到して行く。
その時だ
「陽炎!!」
押し寄せる兵士等の直前に、炎の壁がそそり立った。
草原のどこからも臨めるその炎の壁に、兵士等の足が止まる。
炎の壁は戦場をぐるりと取り囲み、兵士等の行く手を全て遮った。
「エースか!?」
フランキーが叫ぶ。
そして、エースは荒い息に肩を上下させながら、立ちはだかる谷の岩壁に向い
「十字火!!」
激しい爆発音が炸裂する。
もうもうたる煙が薄れた時、谷は大きく穿たれ、ぽっかりと道を開いた。
同時に、エースは一部分だけ火を払い、閉じ込めていた兵士等を解放する。
そして、兵士等の中から声が挙がった。
「火の消えた場所から谷の外へ向え!!焦るな!!隊列を組んで進め!!」
それまで、狂乱の態を見せていた碧軍兵等は、その声にようやく落ち着きを取り戻し、傷ついた仲間を助けながら、整然と軍を移動させた。
声を上げた兵士も、仲間に支えられながら歩き始める。
「大丈夫でありますか!?ヤソップ隊長!?」
「…大丈夫だ…急げ…!」
「はっ!おい、急げ!!だが、先を争うな!!」
深く傷ついた隊長格の兵。
ウソップの父、ヤソップだ。
部下に支えられ、よろめく足で進みながら振り返り、口元に笑みを浮かべながらつぶやいた。
「…終わりだ…エネル…。」
「エース様!!」
野猿が、蒼ざめた顔で草原に膝をつくエースを見つけ、助け起こす。
「…ああ…どうだ…?碧の連中、逃げたか?」
「はい!お見事です!」
「…よかった…。」
にっこり笑って、エースは崩れた。
「殿下!!」
慌てて支える野猿に、エースは笑った。
「…あー、心配すんな…約束したからな…生きて帰るってよ…。けど…さすがに…疲れ…た…。」
「…う…う…!…ぐあああああ!!」
呆然と、エネルを見つめるだけだったゾロの、その時心臓が激しく鳴った。
「…う…!」
「ゾロ!?」
胸を押さえ、身を屈める。
だが、膝を着く訳にはいかない。
必死で上体を保とうとするゾロを、サンジが支えた。
「…来る…。」
苦しい息の底から、ゾロが言った。
「え?…何が!?」
「…そうだ…おれのものだ…戻れ…。」
それは、無意識の言葉。
「ゾロ…!?」
「………。」
ゾロの目がサンジを見る。
わずかに戸惑った目。
だが、次の瞬間ゾロはサンジを抱きしめた。
「…やらぬ…やらぬ…これは吾のもの…返さぬ…断じて…何故だ…?何故!?」
「…戻れ…おれはここだ!おれはここにいいる!!」
「おおおおおおおおおおおおおっ!!」
「戻れ!お前の真の器はここだ!!お前がおれの力なら、誓約なんぞに縛られずに戻ってくるだけの根性を見せやがれ!!」
ゾロが叫ぶと同時に、エネルの全身から黄金の光が溢れ出す。
矢のように天に駆け上ったその光の矢は、天を覆った黒雲を貫き、渦を成した。
渦は、雷電を発しながら地と天を繋ぐ竜巻となり、彷徨うように右へ左へと身をくねらせる。
「来い!!お前の持ち主ロロノア・ゾロはここだ!!」
サンジを抱く腕に力をこめて、ゾロは声を限りに叫ぶ。
そのゾロの背を、サンジもまた力の限り抱きしめた。
目が眩む、意識が遠くなる。
自分の力が、ゾロに吸い取られていくのがはっきりわかる。
だが、最後の一滴まで奪われようともかまわない!!
「来い!!」
最後の叫びに、巨大な竜巻は轟音を挙げて踊り狂う。
そして大きく跳躍すると、まっしぐらにゾロめがけて突進した。
その様は、戦場のどこからも見て取れた。
あまりの光景に、誰もが立ち尽くし、見つめるしか出来ない。
「…大地を割る雷の…混沌の力…これがそうか…。」
エースは、何故かこみ上げる笑いを隠せなかった。
野猿に抱えられ、その腕に体を預けたままだが。
「いた!エース!!」
その声にエースは振り返る。
愛しい弟の、少し怒った顔。
「よぉ、誕生日おめっとさん。」
兄の言葉には答えず、ルフィは右手を差し出し言った。
「返せ!!」
「ああ、返す。…ま、もう少し待て。」
「待てねェ!!」
と、野猿がルフィを押し留め
「ルフィ様…!兄上様は…!!」
その野猿に最後まで言わせず、エースは言う。
「大丈夫だ。これが済めば、エネルは倒れる。お前が力を得る必要はねェさ。」
「無くても返せ!おれんだろ!?」
まるで、貸したおもちゃを返せというような口調。
ルフィは、草原から天へ登り立ち、荒れ狂う竜巻を見つめ、ここまで届く烈風に髪をなびかせながら尋ねた。
「……アレが、“ゾロ”か?」
「そうだ…。」
エースは答えた。
野猿に手を借りて、よろめく足で立ち上がる。
「…その昔、混沌が形を成していた頃、生まれた4人のわが子にそれぞれ与えた力。『地・火・水・風』…これが何を生み出すか、わかるかルフィ?」
「全部だろ?」
「…全部?」
野猿が、わずかに眉を寄せた。
ルフィの言葉の意味を、図りかねたような表情だ。
だがルフィは、少しも揺るがず
「そうだ、全部だ!土がなけりゃ住む場所はねェし、草は育たねェし、牛だって豚だって育たねェ。
風がなけりゃ鳥は飛ばねェし、船は海や川を行かねェ。水がなけりゃ喉が渇くし。
空のあの丸い火がなけりゃ毎日夜ばっかりだ。寒くて凍えてちまう。」
エースは、ルフィの答えに満足した様に笑った。
「そうだな…。混沌自身も、翠天も蒼天も…朱天も紅天も…みんな、ただ自分の子供たちに幸せに、仲良く生きて欲しかっただけだったんだろうな…。
やつらにとっちゃ、持って生まれた当たり前の力だ。」
誰が、己の子供達に不幸になれと思うだろう。
「ルフィ。」
「あ?」
「この力、返すぜ。」
「…そしたらエースはどうなる?」
「…死ぬかもしれない…。一度結びついた肉体から、また引き剥がすことはハンパじゃねェ体力を使う。」
「ダメだ。」
「ダメと言われてもなァ。」
「根性出せ!だいじょーぶ!なんとかなる!!エースは死なねェ!エースは強ェんだからな!!」
「………。」
笑うエースに、ルフィがふと、不安な顔になる。
「なァ、おれはどうなる?」
「お前?」
「うん。髪の毛とか。やっぱ赤くなるのか?」
「どうかな?返してみねェとわからねぇなぁ。」
「じゃ、やってみっか!おし!来い!」
言って、背筋を伸ばしたエースを野猿が止める。
「エース様!!」
「大丈夫だって、死なねぇよ。」
大丈夫。
この強さがあれば、あの娘が側にいれば、コイツは大丈夫。
自分が側にいなくてもきっと、あの国を、あの娘を、友との絆を、全て守っていってくれる。
「あ。やっぱ、いらねェと思ったら、またエースに返す。」
「できねェよ!!」
やっぱり不安だ。
こりゃ、死ねねェや。
エースの笑い声が、空に吸い込まれていった。
「ねぇ!ゾロは!?サンジくんはどうなったの!?」
烈風に飛ばされそうになりながら、ナミは、近侍に叫んだ。
ボン・クレーの軍と共に、エネル軍の中央に飛び込んだという伝令は聞いた。
その後、あの混乱で何もわからなくなってしまった。
「それとあのバカはどこに行ったのよ!?サンジくんの所に行ったはずよ!?どうなったのよ!?どうして戻ってこないの!?」
声に半分涙が混じる。
その娘の馬首に、轡を並べたのは父王だった。
「落ち着けナミ!王が不在であれば、王妃たるお前が毅然とせずしてどうする!?」
「でも!!」
信じている。
信じているが。
「…怖い…。」
「あの渦の中で、今決着が着こうとしているのだ。目を開き、最後まで見ろ!」
「………!!」
何が起ころうとしているのか、ロビンも真っ青な顔で竜巻の方向を見つめるしかない。
あの中に、弟がいるのはわかっている。
「サンジ…。」
どうか無事で。
生きていて。
この手から、離れていく事はわかっている。
でも、それは幸福な形での別れでありたい。
私も、初めはあなたが怖かった。
あなたが生まれて、お母様は毎日の様に怨嗟の言葉を吐いていた。
大好きなお母様に、そんな醜い言葉を吐かせるあなたが嫌いだった。
頼もしく力強かったお父様が、弱く、荒れていくのが嫌だった。
でも。
弟。
たったひとりの、私の。
池に面したテラスのゆりかご。
少し日が差しかけていて、あなたは小さな声で泣いていたわ。
誰も、あなたの声を聞こうとしなかった。
小さな、か弱い声。
とても、乳母や達が噂するような、恐ろしい力を持つものの声には思えなかった。
遠くからそっと近づいて、恐る恐る、その中を覗いたわ。
なんて綺麗な赤ん坊だろうと思ったの。
あなたは泣いていたけれど、ふと、私を見て、そしてにっこり笑ったの。
そうしたらね
庭の池に、波紋が広がって、その上に虹がかかったの。
とても、とても綺麗だった。
あなたが、私に見せてくれたの。
その時、私はあなたが大好きになったのよ…。
私にだけ、笑ってくれた。
私にだけ、甘えてくれた。
私にだけ、涙を見せてくれた。
守りたかったわ。
でも
あなたは自分で見つけたのね…。
これは定められた運命などではなく、勝ち取った運命。
「陛下…。」
「なぁに…?」
「…殿下は…これが終わったら藍にはもう、お戻りにならないのですね…。」
「ええ、そうね。」
「寂しいですわ。」
「まぁ、それはダメよ。カリファ。」
「はい?」
「いちばん寂しいのは私よ?それは誰にも譲らないわ。」
「………。」
「だからあなたは、笑って見送って上げて頂戴。」
「…努力いたします…。」
にっこりと笑う女王に、カリファもまた笑った。
黒くうねる竜巻は、放電を徐々に弱めながらその邪悪なまでの色を薄めていく。
やがて、一筋の光の矢となったそれが、ゾロの心臓を貫いた。
貫いた、という表現は間違っている。
光は、ゾロの体内に飛び込んだ後、全身の血管を駆け巡った。
「…う…ぐ…う…うあ…あああああっ!!」
全身が粟立つ。
髪が逆立つ。
全身が痺れる。
「…ゾロ…ゾロ…!!」
耐えるゾロを、ありったけの力で抱きしめる。
だが、もう目が見えない。
「…吾の…わ…れの…ちか…ら…。」
地に仰臥し、エネルは痙攣する指をゾロへと伸ばす。
届かない、望み。
自身の存在を、顕したかった。
誰にも認められる、碧の皇帝になりたかった。
このまま皇帝になっていたとて、人々の目は、いつもあの弟を求めるに違いない。
「…わ…れ…は…。」
ぱたり、と、枯れた腕が、草の上に落ちた。
落雷から逃れようと、兵士達は谷の外へと必死に逃げ惑う。
混乱は収まったかに見えたが、それでも人々は必死で逃げた。
エネルの放った雷が、あちらこちらの草木を焼き火の手が上がる。
その悲鳴が、霞む五感の果てでゾロの耳に届く。
痺れる手にサンジの感触。
抱えて抱きしめたまま、ゾロは大地を踏みしめて立ち上がった。
わかる
この身に、かつてなかった力が蓄えられたのがはっきりとわかる。
「…ゾロ…手を…。」
「………。」
「救える。お前なら…。」
固く、互いの手を握り、ゾロは天の黒雲に向い顔を上げた。
目が霞む。息が切れる。
それでも
「斬り裂け!!」
一閃された言葉と共に、黒雲が膨張し巨大な雷を放つ。
一瞬、人々は絶望に身をすくめたが、その巨大な光の閃光は草原を、大地を、真一文字に斬り裂いた。
裂かれた大地は、一瞬にして底も見えぬ深い谷となる。
轟音が轟く。
激しい地の鳴動と、土砂の崩落する音。
割れた大地が、炎の行く手を遮った。
「地面が割れた!?」
「見ろ!炎の足が止まった!!」
「助かったぞ!!」
歓声が上がる。
敵も味方もなく、抱き合っての歓喜。
ゾロの腕の中で、サンジが小さく微笑み、わずかに指を上げて囁くように告げる。
「蒼天女神…我が母よ…。」
「慈愛の雨を……。」
サンジの肌が真珠の様に輝いて、その光が空へゆらりとたち登っていく。
やがて、見上げるゾロの頬に、一粒の雨が落ちてきた。
優しい、暖かな雨は、やがて草原中を覆っていった。
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(2008/5/23)
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