BEFORE
 













金ってのは 腹の足しになるのかい?



















おれを バカと言っていいのは おれだけだ。



















命なんか とうに捨ててる



















簡単だろう 野望を捨てるくらい

















炎が怖くて、料理人が務まるかよ





















背中の傷は 剣士の恥だ





















おれも行くよ













連れてけ









つきあおうじゃねェか







バカげた夢はお互い様だ







二度と負けねェ







文句あるか















海賊王





































































































眩い光に、ゾロは一瞬目をしばたかせた。



見上げる、青い天に白い雲。

もう、悪魔のような黒雲はどこにもない。



 「……う……。」



半身を起こし、眩む頭を押さえて首を振る。



今、何か夢を見ていた。



 「サンジ!!」



腹の上に、力尽きた様に伏したサンジの髪。

顔が、向こうを向いていて表情が見えない。

肩を掴み、抱え起こす。



 「サンジ…!サンジ!おい、サンジ!!」



がくり、と首が背中へ折れる。

青ざめた顔、固く閉じた目、紫色の唇…。



 「サンジ…!?サンジ!!おい!!」



答えは、ない。



 「…っ!!」



白い指は、ピクリとも動かない。

だらりと、草の上に投げ出された足。

重く胸にのしかかる体重。

あの軽やかな体とは、思えない程の重量感。



 「…そんな…嘘だろ…?…おい…!」





 『ひとつだけ、見抜けない種類の嘘がある。』



 「…!!…。」





 『命懸けの嘘だ。』



 『自分の命と引き換えにつく嘘は、誰も見破れねェ。』





 「嘘だろう!?これが嘘だろ!?なぁ!!?」





 「サンジ!!サンジ!!…あんな伝説、蹴り飛ばして斬って捨てるって言っただろう!?

 おれ達が、最初の2人になるって言っただろう!?なぁ!おい!目を覚ませ!!起きろ…!!頼む…起きてくれ…!!」





 「…サンジ…!頼む…この目を見せろ…この青い目を…開いてくれ…おれを…その目で見てくれ!!」







サンジの手を握り、ゾロは叫ぶ。





 「この手で、もう一度おれを抱いてくれ!!なぁ…!」





震える手で、唇をなぞり



 「…この唇で…もう一度おれにキスしてくれ…もう一度…。」



血を吐く様にむせびながら、ゾロはサンジの体を抱きしめる。



 「…愛してると言ってくれ…。」



風が、ゾロの頬を撫でていく。

愛しい体を抱きしめ、ぬくもりを探る。

鳥のさえずりが草原に帰ってきた。



 「サンジ…!もう一度…頼む…一度でいいんだ…!!」



















































































 「愛してるよ。」





















 「!!?」

























 「言ったぞ。一度でいいんだよな?」























































 「ふざけんな!!てめェェェェェ!!!!」



たった今、力の限り抱きしめた体を、今度は地面に叩きつける。



 「痛ェな!!ナニしてくれやがんだ!!?このクソマリモァ!!」



ゾロは立ち上がり、耳まで真っ赤になって叫ぶ。



 「…死んだ振りなんざしやがって…ウソップよりタチ悪ィ!!よくもこの状態で、こんなふざけたマネしやがってェェ!!」

 「いや〜〜〜痛快だったなァ〜〜〜〜。こうも気持ちよく騙されてくれるとは思わなかったぜ。」

 「やっぱり騙してやがったんじゃねェかぁぁ!!」

「第一、	ちょこっと胸でも見りゃ、わかりそうなもんだろ?」

 「そんな状態か!?」

 「あ〜、でもやっぱりダリィ…吐き気がする…。」

 「知るか!!」

 「ごめん。」

 「………。」







見つめあい、あふれる万感の想いを噛み締める。

そして、互いに手を差し伸べあい抱きしめた。



 「…愛してる…ゾロ…。」

 「一度しか言わねェんじゃねェのか?…今度はおれに言わせろ。」



唇を重ね、離し



 「愛してる。」



もう一度抱き合って、極上の笑顔を交わした。













 「どうだ?体、違和感はあるか?」



サンジの問いに



 「そういうのはねェ。だが、わかる。力が戻った。しっくりくる。…お前は?」

 「ああ、全然平気だ。むしろ心地いい。…お前の手から、暖かいものがあふれてくる…

 わかる…さっきまであんなにだるかったのに…力が戻ってくるみてぇだ…。」



手を握りあい、額を合わせ互いの地と水の力を与え合う。



 「…水は地を潤し…。」

 「大地は水を生む。おれ達は、こう有るべき存在なんだ。間違っていたのは過去の奴等の方なんだよ。」



サンジは大きくうなずいた。

だが、わからないことがひとつだけある。



 「誓約が果たされた訳ではないのに…。」



つぶやいて、サンジは『エネルであったもの』を見た。

力に押しつぶされ、それを失い、只の抜け殻になった…。



ゾロが言う。



 「気合だ。」

 「んなワケあるか…。」



笑って、ゆっくりと立ち上がる。

風が心地よい。



 「いい風だ…ナミさんが吹かせたのかもな。」

 「まさか…。」



まさか



な。





と



 「ゾロォ!サンジィ!!」

 「…よかったー!!無事だな!!」



呼びながら、駆けて来るのはルフィ。

その後を、えっちらおっちら走ってくるのはウソップ。



 「ウソップ!!」



ウソップは、ゾロよりまずサンジに抱きついた。



 「サンジ!サンジ!サンジ!サンジィ!!」

 「…心配かけた…ごめんな。」

 「…もういいよ…!もういいよ!生きててくれたんなら、もういいよ!なんでもいいよぉぉ!!」

 「ゾロ!」

 「ルフィ…おい、何だ、その頭?」

 「へっへー、かっけーだろ!?“俺、参上!”なんちって!!」



(作者注:ごめんなさい)



ルフィの髪。

黒のままだ。

だが、前髪に一筋、赤い髪の塊がある。



 「エースの野郎、殆ど使いきっちまっててよ!!全然残ってねぇんだぞ!!?ずっけーよな!!これくらいしか出来ねぇんだ!」



言って、ルフィは指の先に小さな炎を点した。



 「おお、立派立派。」

 「アハハ、お前がいれば、火打石はいらねェなァ。」



逆に考えれば、これだけの力でエースは戦おうとしていたということだ。



 「エースは?」



尋ねたのはサンジではなく、ゾロの方だった。



 「…ん…疲れたって…フランキーの所で休んでる。」

 「無事なんだな?」



サンジの問いに、ルフィは少し困った顔をしたが



 「うん。かなり疲れてるけど…生きてはいる。サンジに、心配すんなって言っとけって。」

 「そうか…。フランキーもナミも無事か?」

 「おう!無傷だ!!」



ウソップに、ゾロは



 「親父は?ヤソップは!?」

 「…まだ、わかんねぇ。けど今、ロビンとアイスバーグが碧軍をまとめてくれてる。将軍たちは4人とも捕まえた。」

 「…そうか…。」

 「終わったな。」



ルフィの言葉に、ゾロは首を振った。



 「終わったんじゃねェ。」



サンジもうなずく。



 「始まるんだ。」













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              (2008/5/23)

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