BEFORE
思わず、サンジは身を屈めてそれを拾おうと手を伸ばした。
だが
「!!?」
そのまま、床に叩きつけられて、サンジはゾロの膝で押さえつけられた。
「……ゾロ……。」
「“シックスセンスカード”」
「………。」
「……掃除の最中に見つけた。棚の扉の隙間に新聞紙が挟まってたぜ。
てめェにしちゃ随分とぞんざいな物の置き方すると思った。落ちて来たらやべェなと思って開けてみた。
案の定、扉開けると同時に落ちてきて、中身がバラけた。」
「………。」
「…そしたら…昨日1日、おれのハラマキに入ってたカードがあった。」
「!!…てめェ…気づいて…?」
「心当たりがてめェしかねェしよ。なんかのくだらねェまじないかと思ってほっといた。
昨夜、風呂場へ取りに来たろ?」
気がつかれてた…。
「見たら無くなってたからよ。その時は笑い飛ばしたが、この取り説読んで、面食らったぜ。」
「………。」
サンジは悔しげに目を逸らした。
だが、ゾロはサンジの顎を掴み、真正面に目を合わせて
「…おれが…何を見て何を聞いているか、そんなに気になるか?」
意地悪げな声だった。
こいつの嗜虐的な性格が、鎌首をもたげて赤い舌を出したのが見えるようだった。
思い通りになんかさせたくない。
「…ああ…気になった…。」
「………。」
「…だから…ほんの遊びのつもりだった…。」
「…見えたんだな?」
「…見えた…。」
「何が見えた?」
「………。」
チクショウ
ぽろっと、サンジの瞳から涙がこぼれ落ちた。
情け無さと口惜しさの涙だ。
自分が惨めで仕方が無い。
「…知りたかったよ…だから試した…悪いか…!?」
「………。」
「……おれ以外のヤツを見るてめェなんか…知りたくなかった……!!」
「…あのな…。てめェ以外のヤツを見ないで生活はできねェだろうが?」
「…ああ…!!てめェでてめェがバカだってのは、充分わかってる!!」
激しく、顔を逸らしたサンジの顔を見下ろしながら、ゾロは不意に険しい顔になる。
「サンジ。」
「………。」
「……今のてめェのツラ…“あの頃”のおれと同じツラだぜ。」
「………!」
ゾロに抱かれながら、ゾロの名を呼んで狂喜しながら、心の中はルフィしか許さず、ルフィばかりを目で追っていたあの頃。
「あの頃、このカードがあったら、使っていたのはおれかもしれねェ。」
心臓が、ドクンと大きく鳴った。
否
お前はそんな馬鹿な真似はしない…。
抱いた嫉妬は醜くて、場末の酒場の女のようだ。
今、このカードがゾロと自分の感覚を繋いでいたら、自分がどんなに惨めで醜い顔をしているか見えるだろうに。
今の自分と、あの頃のゾロとは全く違う。
それでも優しいお前は、おれのそんな醜い部分全て許して、受け入れてくれた。
なのにおれは
ゾロの目に映るルフィは、自分が見つめるルフィよりずっとたくましくて、輝いていて眩しく、愛しかった。
ルフィとゾロの関係性は特殊に過ぎる。
本来なら、自分など入り込む余地の無い濃密なものだった。
なのに、おれが余計な恋慕をルフィに抱いて、ゾロを汚濁にまみれさせて…。
「………。」
清冽に過ぎる誇り高い剣士を、ルフィの一番の宝を、汚してしまったのはおれだ。
ゾロに、余計なものを背負わせて、ルフィから目を逸らさせた罪は消えない。
誰よりも愛しい未来の海賊王を、その慈愛の眼差しで見つめる事を止める権利などおれには無いのに…。
この劣情は、あまりに罪深い。
「コック。」
「………。」
「…今…てめェが何を考えてるか…こんなもんが無くてもわかるぜ。」
「………。」
「何でてめェは、こういうコトになると途端に自信を無くすんだ?」
「………。」
「…ルフィとてめェは、何もかもがハナっから違う。」
ゾロが、ルフィの名を口にした。
本当に、何もかもこいつは見透かしている。
「………。」
バカな事をした。
本当に。
あんなことしなきゃよかった。
自分の想いも、こいつの想いも、何もかも裏切るような行為。
こいつの心が、た易く変わる事などある訳ないのに。
おれだから
ゾロは想ってくれている。
でも、いっそ、この体も心も女だったら、今、こうして自分を見つめるゾロに縋り付いて泣けるだろうに…。
と
「……!?」
ゾロの手が、サンジの左手をとった。
そして間髪をいれずに、その掌にカードを握らせ、自分のバンダナでその手を包む様に縛り上げた。
「…ゾロ…!?」
「………。」
サンジの体を膝で押さえつけたまま、ゾロは怒りを含んだ目で見下ろし、サンジの目の前にカードを突き出す。
6枚の黒いカード
「…ゾ…ロ…!」
縛められた掌の中に、複数のカードがあるのがわかる。
おそらく
6枚全部の赤いカード。
そして、ゾロは纏っていたアーミーシャツの胸ポケットに、カードを入れた。
入れる前に、サンジに言った。
「“手”と、“口”。まずはこれでいくか。」
「ゾロ…!!」
「……上は脱がねェ。マッパじゃカードをくっつけられねェ。握ってたら、てめェを触れねェしな。」
「ゾロ…!やめ…!!」
縛った手を握り、床に磔て、唇に唇を寄せて言う。
「どうしてわからねェ?」
「………。」
「わからねェってんなら、わからせてやるよ。」
心臓が大きく鳴った。
来た
ゾロの感触がダイレクトに、サンジの感覚で再現される。
握った手の感触。
自分の肌の感触を、自分の手で、指で感じる。
「…あ…!!」
悲鳴を挙げる唇を、ゾロのキスが塞ぐ。
歯の間から割り込んだ舌が、サンジの口腔を蹂躙する。
「…ん…んん…!!…んう…!!」
キスをされているのは自分なのに、自分の舌に絡めてくるゾロの舌の感覚まで感じる。
そのキスの深さに、全身が電流でも流されたかのように激しくわななく。
「ん!んん…っ!!」
くちゅくちゅと、濡れた音がする。
舌も、唇も、一方的なキスを受けているはずなのに、自分が激しく欲して口付けを繰り返しているようだ。
ゾロの感覚の方が強すぎて、自身の快楽が遠く、手が届かない。
唇が離れた。
痺れるようなキスから解放され、サンジは思わずむせて咳き込んだ。
「…色っぽくねェな。」
「…う…げほっ…う…っせ…。」
僅かないたわりも見せず、ゾロは半身をずらした。
サンジの片手だけの抵抗など意味はなかった。
一気にベルトを外して、返す勢いでズボンごと下着を下ろす。
「…や…だっ…!」
欲情するような心のゆとりは無かった。
萎えたままのサンジのそれを手で包み、ゾロは躊躇うことなく口に含む。
「…あああっ!!」
思わず、縛られていないほうの手を握りこんだ。
無意識に、サンジの口も、それを包みこむような形になる。
手に
舌に
自分自身のそれの感覚
「…どうだ?」
「………!!」
「…自分のモンは美味ェか…?」
「…や…やめ…っ…ぐ…っ!!」
サンジは驚愕に目を見開く。
わかる
自分の口の中で、自分自身が徐々に漲っていくのが。
「…あ…あ…!や…!!ヤダ…!!嫌だ―――!!」
「………。」
「…ゾロ…ゾロ…ゾロォ!!」
答えが無い。
無いのはわかる。
今、ゾロの口の中はサンジ自身で溢れている。
声など出せるはずも無い。
滾り、固くなったものを、ゾロは執拗に舌で愛撫した。
「ああああああっ!!」
空っぽのはずのサンジの口中。
なのに、口いっぱいに感じる熱い塊。
赤い舌が、淫らに動く。
ゾロの動きを、そっくり真似るかのように。
いつも
こんな風に自分を愛撫するのだ
指の先が、先端の敏感な部分に触れた。
「ひ…!」
自分の指先にも、わずかに濡れた感触がある。
次第に、指が、掌が、熱くぬるりとしたもので湿っていく。
マスターベーションでは決してできない指の動きを、サンジ自身の指が感じている。
実際のサンジの手は、何も無い空中を探ってヒクヒクとうごめいていた。
その手を、ゾロは力任せに引き寄せ
「…う…!」
自分の手を重ねて、サンジのそれを握らせた。
「…や…っ!
二重三重の、指の感触。
ゾロの手が上なのか、自分の手が上なのか。
直にペニスを握っているのが、ゾロなのか、サンジなのか、まったくわからない。
「…手伝ってやる…自分でシゴけ。」
「……!!」
実際にそれに触れている手は3つのはずだ。
なのに、もっとその指は多い様に思えた。
「……あ…っ!…あ…!…ああ…っ…!!」
さらに、先端から零れるものを、ゾロは舌で舐めとる。
「!!…いやぁぁっ!!」
「………。」
「…うぁ…あ…あ…!!」
根元まで、口中で包む。
さらに、ゾロは体勢を入れ替え、互いに舐めあう体位をとった。
「……噛むなよ……ああ…そんなゆとりねェか?」
「………!!」
荒い息混じりにいうゾロの、堅いものがねじ込まれる。
既に充血して高まるそれは、ピクピクと小刻みに震えてさえいた。
そして
「……ん…!?」
サンジは戸惑いに目を見開く。
ゾロが、サンジを愛撫する舌の動きが、サンジの意思などお構い無しにリピートされる。
「…ん…んん…!」
「………。」
言葉は無く、ただ淫らな音だけが、キッチンの天井に響いている。
サンジの口元からだらしなく涎が垂れて落ちる。
無理も無い。
サンジ自身に感じる口中のそれは、ゾロと、サンジ自身のものの2本の男根だ。
苦しさに、涙が溢れて止まらない。
執拗な、舌と指先での愛撫。
筋の全てを余すところ無く舐り、強く、時折弱く、指で、爪で弄る。
「…あ…あ…っ…。」
「…イキそうか…?」
「…う…。」
「…イけよ…全部…口で受け止めてやる。」
「…ヤ…だ…っ…。」
「遠慮すんな。」
「…くぅ…あ…っっ!」
「…オラ…!」
握ったまま、激しく上下する手。
カリから亀頭の先端を唇で含み、舌で吸い上げる様に舐めると
「…ひ…ぅ…ん…っ!」
口の中に迸る熱いもの。
紛れも無く自分自身のもの。
思わず咳き込み、まだ屹立したままのゾロのものから顔を反らした。
次の瞬間
ゾロが、自分が放った体液を、飲み込むのがわかった。
「……!!」
「……自分の味はどうだ?」
「………。」
荒い息を洩らす唇を噛み締める。
血が滲むほどに赤く。
腕で顔を隠し、激しく胸を上下させるサンジを見下ろしながら、
ゾロはポケットから“手”と、“口”のカードを抜いた。
「……“耳”と“目”…ついでに“鼻”も使うか。」
サンジの唇が、小さな声で「嫌」とつぶやく。
だがゾロは、かまうことなく3枚のカードをポケットに入れた。
「!!」
途端に
「うわぁっ!!」
「………。」
サンジが悲鳴を挙げた。
網膜に映る、自分のあられもない姿。
思わず挙げた悲鳴が、ゾロの耳を通じてサンジの耳に再び届く。
「…へェ…。」
憎らしげに笑い、ゾロはサンジの太腿に手をかけた。
「…やだ…やめろ…!!」
どんなに目を固く閉じても、ゾロの見ている映像はサンジの目の中で再現される。
かえって、目を閉じてしまう方が、リアルに映像が飛び込んでくる。
咄嗟に払いのけようとすると、今度は目の前にゾロの顔がある。
戸惑い、うろたえ、与えられる快感にわななくサンジ自身の姿が、自分の目の前に広がる。
鏡の前で犯されているような錯覚。
だが、鏡でさえ、こんな角度で自分自身のその部分を見る事など決してない。
「…う…あ…。」
「………。」
「…ああ…あ…や…っ…!」
思わず目を見開き、サンジはゾロへ叫んだ。
「…見るな…!!」
「…なんで?」
「…頼む…そんな…見るな…恥ずい…!!」
「…可愛いじゃねェか…ホラ…。」
「…ひ…っ!」
「…こんなにビンビンにおっ勃っちまってよ…。」
「………っ。」
「…可愛がってほしくて…こんなにトロトロだ…見えてるんだろ?…ケツの方にまでたれてるぜ?」
「…や…いや…。」
「…嫌じゃねェだろ…?嫌だったらこんなになるハズがねェよな?」
「…あ…あ…ああ…。」
「お、また少しデカクなった?」
獣の様に呻き、サンジは両腕で顔を隠す。
「…隠すな…。」
閉じた瞼の中で、自分に差し伸べられるゾロの手が見えた。
固い手が腕を解き、そのまま、唇を寄せて深く口付ける。
「………。」
淫らな音が、二重にサンジの耳に届く。
心地よい香りが、鼻腔をくすぐる。
サンジがいつも着けているコロンの香り。
ゾロが嗅ぐサンジの香りは、煙草と、潮と、様々な香辛料と、ナミのミカンの香りと、いつもほんの少しだけつけるコロン。
サンジはコックだ。
香りの成分をハデにつけたりはしない。
それでも男の身だしなみと、少しだけ、爽やかな香りのコロンをつけている。
その香りを、間近で嗅ぐ事ができるのはゾロだけだ。
ゾロだけが知っている、秘密の香り。
自分が瓶から嗅ぐ香りと、今、ゾロの鼻を通して嗅ぐ香りは、同じ物でありながら全く違った。
ゾロの嗅覚で感じるその香りは、目が眩む様に甘い。
「…ゾ…ロ…。」
「…ん…?」
「………。」
「…呼べよ…もっと…。」
「…ゾロ…。」
自分の耳に広がる自分の声が、とても心地いい。
ブルックが、美しい音色を奏でてくれた時のような心地よさ。
おれの声
お前の耳にはこんな風に届いてるのか…?
「………。」
ぽろ
固く閉じた目から涙が落ちる。
僅かに顔を逸らしたサンジに、ゾロは眉を寄せた。
不意に半身を起こし、そして
「………!!」
ゾロの意図にサンジは気づいた。
「止めろゾロ!!」
「………。」
「ゾロ!!」
「やめねェ。」
「頼む…やめ…!!」
ゾロは、3枚のカードを捨てて、残り1枚のカードをポケットに入れた。
「……あ…!!」
最後の1枚
“心”
(2009/7/17)
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