BEFORE
翌朝も、よい天気だった。
昨日と同じ様に収穫は進み、明るい青空の下に陽気な笑い声と歌声が響く。
「ルーフィー!!お前、サボってんなら帰れよ!ジャマだ!!」
「サボってねェよ!!」
「全っ然!獲れてねェじゃねェか!!」
「口に運んでばっかりだもんね〜〜〜。」
「だって美味ェんだもん!」
「やっぱ、食ってんじゃねェかァ!!」
「今年のアレアティコ、糖度が高いのよね〜〜〜。きっと、いいワインになるわよ!」
「おお、ナミのお墨付か!期待していいな、コリャ。」
フランキーが言った時
「おぉ〜〜〜〜い!昼メシの時間だぞ〜〜〜!!」
サンジの声がした。
「お!待ってましたァ!!」
弾かれる様にルフィが駆け出す。
「こういう時だけマッハの速さかよ!!」
ツッコミながら、ウソップも走りだす。
放り投げる様に置き去りにされたバケツを拾いながら、ゾロが叫ぶ。
「てめェら!!大事に扱え!!」
昨日にも増して賑やかな食事。
たった1日で打ち解けたサンジは、全員とすっかりタメ口をきく様になっていた。
「で?旦那は大歓迎って言ったんだな?ルフィ。」
ヤソップが問うと、ルフィは、5人分の大きさのバタールを噛み千切りながら
「おお!ウチで、シェフで雇っていいって言ってたぞ!なァ、サンジ!ここにいろよォ!」
「…そうだなァ…。」
テーブルの隅に座っているフランキーとロビンは、表情を固くしたまま、ゆっくりとグラスを口元に運ぶ。
と、ゾロが
「…ここにいるなら、ウチに居りゃあいい。」
と、言った。
一瞬
全員の動きが止まる。
ゾロの口から出た台詞とは思えなかった。
同時に
「…アホ!!」
思わず叫んだのはフランキーだった。
顔色が、明らかに変わった。
そんな父の様子をチラリと見て、ゾロは目を逸らし黙りこむ。
「…ゾロ。」
ロビン。
「サンジは、ヴェローナにお父様が居るのよ。」
「………。」
「無理なことを言ってはいけないわ。」
サンジが小さく笑う。
どこか、寂しい笑顔。
座が、しんと静まり返ってしまった。
「……ルフィ。」
サンジが呼ぶと、ルフィはごくんとパンを飲み込んだ。
「…ありがとう。嬉しいよ。」
「………。」
「けど、だからってこのまま居座るのはちょっとな。」
「…うん。」
「……ここの収穫が終わったら帰るよ。」
サンジの言葉にゲンゾウが
「何も…そんなに急がんでも…せめて仕込みまで居てくれないか?
仕事はまだまだある。ガープの旦那も、そう話していたぞ?」
「ありがとう。けど…帰るよ。」
「………。」
たった2日だけど。
みんな、このとんでもなく綺麗で、料理の上手い男が大好きになったのに。
「…来年も来るよな?」
ウソップが言った。
「来てくれるわよね、サンジくん。」
ナミも。
「帰るなよ、サンジ!」
ルフィの声は、本気で怒っている。
「サンジにも家族はいるのよ。」
ロビン…。
「……みんなでそんな無理を言ったら…サンジが困るわ……。」
「……サンジがここに残ったら、困るのは…親父、お袋、あんた達じゃねェのか?」
言ってしまってから
「しまった」
そう思った。
そして
「………。」
ああ
なんで、想像通りの顔をしやがる……。
「……すまねェ。」
思ったよりも落ち着いた声で、フランキーが言う。
「すまねェみんな…今日はこれで引き上げてくれねェか…?」
「…フランキー…?」
「まだ…今日の分…。」
「悪い。……頼む…今日は帰ってくれ……。」
「………。」
戸惑いながら、ナミが
「で、でも、これの後片付け…。」
「ナミ。」
「………。」
「…お願い…。」
ルフィも、真剣な顔でゾロを見る。
「………。」
「…悪ィ…ルフィ…。」
首を振り、ルフィはナミに言う。
「帰ろう。」
「でも…。」
「また明日来るからな、ゾロ。」
ルフィのその言葉に、ゾロは答えなかった。
「明日、また来るからな。みんなで。」
繰り返された言葉に、ゾロは短く答える。
「……ああ……。」
訳がわからない。
不安な顔をして、ナミは渋々ルフィの言う通りにした。
最後まで、ゲンゾウとベルメールは残っていたが、「大丈夫」と言うロビンを信じた。
収穫途中の畑。
まだ、葡萄が半分以上樹に残っている。
「…最初は小さな種だったんだ。」
ロビンと、ゾロと、サンジ。
フランキーは少し小さな声で言った。
「ここは元々葡萄畑だったがすげぇ荒れていて、使い物にならねェと、ガープの旦那もゲンゾウも言った。
だが、おれ達はやってみると言ったんだ。開墾しながら、アレアティコを種から育てて、
やっと5年前に出荷できる様になった…始めの一滴を見た時は、2人で抱きあってオイオイ泣いたぜ。」
「………。」
「ここでこうして、ずっと一生暮らしていくもんだと、一昨日まで信じて疑わなかった。」
一昨日
「…おれか…?…フランキー…。」
サンジの言葉に、フランキーは笑ってうなずいた。
すると
「…一目でわかったわ…。」
ロビン。
「あなたが、ヴェローナから来た事は…。」
「確認したんだ…?」
「…ええ…。」
「“親父”の事も…。」
「ええ。」
両親とサンジの会話に、ゾロは口を挟んだ。
「……フランキー。」
「………。」
「…ロビン…。」
「………。」
「…おれは…誰だ…?」
「…おれの息子だ…!」
即答するフランキーに、ロビンは涙をにじませる。
「おまえはおれが…おれが育てたんだ!赤ん坊のお前を、おれが!!」
「ゾロ。」
サンジが言う。
「…お前の父親はこの人だ…だが…。」
「………。」
「遺伝子を与えた父親は他にいる。」
「………。」
「…そして…。」
サンジが何かを言おうとした時
「…あなたを育てたのは私よ、サンジ…。」
母の言葉に、ゾロは初めて驚愕した。
「…な…?」
サンジは悲しげに笑い
「…うん…知ってる…。」
「…覚えているの…?」
サンジは首を振った。
「覚えてない…けど…あなたがここに、フランキーとゾロと…一緒にいるという事は…そうなんだろうと思った。」
「ここへ来たのは偶然…?」
「………。」
「お前を育てたのが…ロビン…?」
ゾロの声に、サンジは振り返る。
「じゃあ…ロビンは…?」
「いいえ、サンジの母親は私じゃない。…だれが母親なのか…私は知らない。」
「…なんだってんだ…ワケがわからねェ!!」
「…ゾロ…。」
「説明しろよ!!何がどうなってんのか、おれにァさっぱりわからねェ!!」
「………。」
「知ってたよ…フランキーが本当の親父じゃないって事は!
まさか、ロビンまでそうだとは思わなかったけどな!!」
顔を覆い、ロビンが嗚咽を堪える。
「おれ達3人全員…赤の他人だったとァ…夢にも思ってなかった…。」
「………。」
「…ゾロ…。」
サンジの呼びかけに、ゾロは顔を上げた。
「………。」
「…ゾロ…。」
フランキーが椅子に腰掛けた。
「長い話になるぞ。」
「かまわねェ。」
サンジに促され、ロビンも腰を下ろした。
フランキーは意を決したように、力強い声で
「ゾロ。」
「………。」
「お前は、イタリア・ヴェローナのマフィア、ロロノアファミリーのボス、ドン・ゾロシアの息子だ。」
(2009/5/1)
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