BEFORE




ゾロ







ゾロ







何してるんだ?







ははは…降りられなくなったのか?







1人でそこまで昇ったのか?







すごいなお前!







ほら来い







お、けっこう重ェな?







コラ泣くな







男だろ?









もう、怖くないぞ









いい子だ









ゾロは強いな

















 「…ロ…ゾロ…!ゾロ!!」



 「ゾロ!おい、ゾロ!!」



 「ゾロ!ゾロってば!!」







 「………。」







 「ゾロ!!」





一瞬、夢を見ているのかと思った。



目の前の、黒い髪と黒い瞳。



 「…ルフィ…?」



今、見ていた夢の人は、金の髪に青い目の―――。



 「ゾロォ!!」

 「ルフィ…てめ…てめェがなんで…?」

 「ゾロぉぉ!!あ〜〜〜よがっだ〜〜〜!3日も眠りっばなじで…

 ほんどに死んじまうんじゃねェがど〜〜〜!!」

 「…ウソップ……ナミ……なんでてめェらが…?」

 「何でじゃないわよ!このバカっ!!」



ごつっと、ゾロの頭を殴る。



痛い



 「……生きてたのか……。」



呆然と言うゾロに



 「生きてるよ!おれが治療したんだから、死なせるもんか!!」



チョッパー。



 「まったく!サンジの治療に来たはずが、なんでこんなのの治療しなきゃならないんだ!!」



首を巡らせ、周りを見る。

あの隠し部屋だ。



 「お気がつかれましたか?」

 「ブルック…。…おれは…どうして…?」



と、ナミが



 「…あんた、ゴミ捨て場に捨てられてたのよ…。」

 「………。」



ブルックが言う。



 「…驚きました…所用から戻ってまいりましたら、すぐそこのゴミ捨て場に、あなたが血塗れで転がっておられたのですから…

 …ヨホホホ、も、死んでるのかと、血の気が引く思いでした。あ、ワタクシ、血ィ足りないんですけど。」

 「…サンジの治療に来たら、ブルックがお前の前で、オロオロ転がり回ってるんだもん。

 助けない訳にはいかなかったんだ!」

 「………。」



ブルックの教会の近くに捨てられていた。

たまたまか、故意か、ゾロにとっては運がよかった。



 「…生きてた…。」



心底、ほっと息をつくゾロに、ルフィが笑って言う。



 「おう!生きてるぞ!」



ウソップも肩をがっくりと落とし



 「はぁ…よかった…。」



ナミも目を潤ませて



 「…無茶ばっかして…。」



小さな声で言った。



ゾロは、ベッドに横になったまま



 「……で、なんでお前ェら、ここにいるんだ!?」



その質問に、ルフィがケロッと



 「ゾロとサンジを迎えに来たんだ。」

 「うん、そう。」

 「あんたの迷子っぷり、サンジくん知らないだろうから。

 無事に戻ってくるかどうか、心配で心配で、悩んでるロビンに代わってね。」



フランキーとロビンに、ヴェローナに着いたらこの教会を訪ねるように言われてやって来た。

そうしたら、聖堂に担ぎ込まれた血塗れのゾロと、必死に治療するブルックとチョッパーに出くわしたのだ。



 「……帰れ。」



ゾロの言葉に、ルフィが眉を寄せる。



 「あ?」

 「…何しに来たんだ…帰れ、ルフィ!ナミまで連れてきやがって!!」

 「帰るぞ。ゾロとサンジと。」

 「……今すぐ帰れ。ナミ、ウソップ!!」

 「………。」



2人共に答えない。



 「ゾロ。」



ルフィ



 「…フランキーとロビンに、話、全部聞いた。」

 「………。」

 「じいちゃんと一緒に聞いた。」



ゾロは、大きく息をついた。



 「…悪ィ…。」

 「何が?」

 「…旦那にまで…迷惑かけるつもりなかった…。」

 「迷惑じゃねェよ。」

 「………。」

 「迎えに行けっていったのは、じいちゃんだ。」

 「そうよ、ゾロ。」



ウソップもうなずく。



 「おれ達は仲間だ。家族だ。家族が困ってたら助けるんだ。」

 「………。」

 「サンジも、家族だ。」

 「ルフィ…。」

 「サンジは、ロビンが育ててたって聞いた。だったら、ゾロと同じだ。家族だ。」



ゾロは、痛みを堪えて半身を起こした。

ナミが、慌てて止めようとしたが、ゾロはその手を拒んだ。



 「………。」

 「…ルフィ…話、聞いたんなら…わかってるだろ?」

 「………。」

 「…おれが喧嘩を売ったのはマフィアだ…。」

 「………。」

 「…帰れ…2人連れて…コルシカへ戻れ。」

 「帰る。サンジとゾロ、2人連れて帰る。みんなと約束したんだ。」

 「ルフィ!!」

 「ふざけんな!!自分勝手なことしてんじゃねェぞ!!ゾロ!!」



ナミが、目に涙を溜めて



 「あんた、まだ戦う気なの!?こんな目に遭っても、サンジくんを諦めないの!?」

 「………!!」

 「…ゾロ…こう言っちゃなんだが…お前はみんなに迷惑かけたって、口でそう言って、

 それでもまだ、サンジを諦めないでここに残ろうとしてる。」



ウソップが、感情的になるナミを抑えて言った。



 「…それがもう、迷惑なんだよ。」



一瞬、ゾロは表情を変えた。



 「言っていいか?今、お前のやってる事は、そのゾロシアとサンジーノがやった事と同じだ。」

 「………。」

 「力と感情で、勝ち取れないものもある。」



ルフィの手が、ゾロの手を握る。



 「1人で戦おうと思うな、ゾロ。」

 「………。」

 「おれも、サンジを奪うために戦う。」

 「…ルフィ…。」



ウソップも手を重ねる。



 「お前の親父達と違うのは、お前達にはおれ達がついてるってことだ!」



ナミも手を重ねた。



 「…一緒に帰ろう。」

 「………。」

 「…あんたの故郷はここじゃない…あの島よ…。」

 「………。」

 「…今はムチャしないで…傷、治して…それから、考えましょう?」



ゾロは静かに



 「チョッパー。」



呼ばれて、チョッパーは胡散臭げに



 「なんだよ?」

 「……おれの傷はどうなんだ?」

 「……胸の太刀傷と、右足の銃創が酷い。両方合わせて全治2ヶ月。

 あと、後頭部の打撲と擦過傷は全治1週間。」

 「そんなに待てねェ…!」

 「待てなくても動けねぇぞ。大量出血したからな。」

 「………っ!……頼む……何とかしてくれ……。」



チョッパーはしばらく考え



 「……仮にお前が動けても、サンジの方が動けないよ。」

 「………!!」



ゾロは、がばっとチョッパーへ身を伸ばした。

胸に激痛が走る。



 「サンジに会ったか!?」

 「……会ったよ。決して元気とは言えなかった。」

 「……っ…!」

 「…お前の事、話したら涙流して喜んでた。」

 「………。」

 「…ゾロシアには言ってないよ。お前が生きてるって事は。」

 「………。」

 「…せめて…最低でも3日は大人しくしてろ…サンジの方も…かなり酷いんだ。」



ゾロは、ベッドに体を投げ出すように仰向けになり、片手で顔を覆い溜め息をついた。



 「……自分が傷つけたんだ、反省しろよ。」

 「………。」

 「………。」







 「……まぁまぁ…今夜はこのくらいにして…そろそろ…お休みになられては?」



やんわりと沈黙を裂いて、ブルックが言った。



 「……ゾロシアに斬られて…助かったほうが不思議です……命は大事になさって下さい……。」





3日。





ゾロは口惜しげに歯噛みした。







軽く食事をした後、ルフィとウソップは隠し部屋で、寝袋に包まって横になり、そのままいびきをかき始めた。

ずっと、ゾロの側についていて、安心して疲れが出たのだろう。



 「……ナミ、お前も寝ろ……。」



ずっと、枕元にいるナミに、ゾロは穏やかな声で言った。



 「うん、寝るわよ。眠くなったら。」

 

 「………。」



 「………。」











 「…ロビンがね…。」



 「………。」



 「…“待ってる”って…あんたに伝えてって…。」



 「………。」



 「…収穫…さぼったツケは大きいぞって…フランキーが…。」



 「………。」









 「…どうして…そんなに一生懸命なの…?」



 「………。」











 「…こんな目にあっても…諦めないの…?」



 「………。」











 「フランキーもロビンも…とっても心配してる…。」



 「………。」











 「…でも…自分達がヴェローナに戻ったら…きっともっと混乱するって…

 戻りたいけど戻れないって…もっと、あんた達が大変なことになるって…。」



 「………。」











 「実のお父さんに対する意地…?」



 「…違う…。」









 「…じゃあ…。」



 「………。」















 「そんなに好きなの…?」



 「………。」











 「…そんなに…好き…?」



 「………。」











 「…ゾロ…。」



 「好きだ。」













その言葉が、どうして自分に向けられたものじゃないんだろう…。



ナミの両目から涙が溢れた。



 「……わかってるわよ…あんたは…あたしの気持ちに気がついてて…

 それでも知らん顔して…酷いヤツって…ホントはわかってた……。」



 「………。」



 「…でも…いつか…わかってくれるかなァ…好きになってくれるかなァ…他に…

 ステキな人が現れなかったら…アイツでいいかって…思ってくれるかなァって…。」



 「…お前は充分にいい女だ…。」



 「…あんたね…振ろうって女に…それはないんじゃない?」



 「………。」



 「……いきなり現れたサンジくんに……持ってかれちゃうなんて思わなかった……。」



 「………。」



 「…でも…なんだか…“いいな”って…思っちゃった自分がものすごくミジメでバカだと思うわ…。」











 「…フランキーとロビンに話聞いて……ああ、もう…これは運命で…

 あたしの入る隙間なんて……あんた達が生まれた時からなかったんだって……。」



 「……ナミ……。」



 「………。」



 「運命なんて言葉、口にしてくれるな。」



 「………。」



 「……おれも…この熱をなんて言ったらいいのかわからねェ……。

 ただ…あいつに会った瞬間……体中の血が沸騰したようだった…。」



 「………。」



 「…それが…互いの親父たちの血だというなら…。」



 「………。」



 「…その血を…おれに与えてくれた事に感謝している…。」



ナミは目を見開いた。



 「…あんた…そのお父さんに斬られたのよ!?斬られて、ゴミみたいに捨てられて!!」



 「…おれの父親はフランキーだ…。」



 「………。」



 「…他にはいねェ…。」



 「………。」



 「ナミ。」



 「……ありがとうな……。」



 「……そのセリフは…島へ帰ったら聞かせてもらうわ。」



 「…てか、やっぱ帰れ…お前ェ…。」



 「あら、心配?」



ナミはいたずらに笑って、ゾロを覗き込んだ。



 「…たりめーだ…傷でもつけて帰ったら…ゲンゾウとベルメールにぶっ飛ばされる…。」



 「ちゃんと、父さんと母さんにもお許しもらってきました。ウソップもね。

 今、帰ったら、あたしが怒られちゃうわ。それに…。」



 「………。」



 「……ルフィ…もォ…ボウボウに燃え上がっちゃってるから、いざって時は、あたししか止められないでしょ?。」



 「…そうだな…。」



ようやく、ゾロは笑った。



 「さ、あんたももう寝なさい。……少しでも回復しなきゃ。」









 









(2009/5/15)



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