BEFORE




何?



ブルックの言葉に、ゾロはさっと顔色を変えた。



ゾロだけではない。



サンジの顔も



湖面の光に映えたその白い顔は、灰色になっていた。







 「…ドン・ゼフーノは…大戦の混乱の中…必死にファミリーを守りぬかれた…

 その大切なものを…その血を引く息子が踏みにじり…汚そうとしている…。

 男に心を奪われ、男に体を許し…他者から蔑まされてもなお、その汚れた愛に誇りを抱き、決して捨てず

 …いつまでもいつまでもその男に執着し…恋焦がれ……。」





まさか







まさか







まさか!!





 「…ドン・ゼフーノ…どれほど心を痛められていたでしょう!?

 自分が築き、守り続けてきたものを、自分の息子が貶め壊していく!!

 許せません…!これ以上!ドンの大切なものを汚す愚か者を!

 罪深い美しい悪魔を!!許しておくことなどできなかった―――!!!」



 「ブルック――――!!!」



サンジの絶叫が轟いた。

木々の間から鳥が羽ばたいて行くのがわかった。

瞬間、ゾロは抜刀し、ブルックに向って跳躍する。

が、ゾロの太刀は、ブルックの細身の剣に受け止められた。

ステッキに仕込んだサーベル。



 「…てめェっ!!」



怒りに歪んだゾロの顔を間近にしながら、ブルックは言う。



 「…本当に…忌々しい!!あの時の2人と同じ顔!同じ姿で!

 同じ愚を繰り返す!!許せません!!許されてはなりません!!」



刃が交わる。



 「ブルック…!!ブルック!!ブルック――――!!」



青い目に涙が溢れ、サンジは耳を塞ぐ。

聞きたくない!

信じてた!

信じていたのに!!



 「お聞きなさいサンジさん!!…あなたに懺悔いたしましょう!!そうです!!」

 「止めろ!言うな!!」



ゾロが叫ぶ。



 「ワタクシが!!サンジーノを殺したのです!!」



 「嘘だ―――!!」



耳を塞ぎ、サンジは激しく首を振る。



 「いいえ聞きなさい!!あなたの父親は、邪な愛を貫いて、

 逢えぬ恋人を想い続けて、ワタクシの嘘にいともた易く乗っかった!!」



 「………っ!!」



 「“ゾロシアからの伝言があります。直接伝えたいのですが、こちらからはバラティエの門を潜れません。

 よろしければ、明日の夜、ジュリエットの家においでいただけませんか?

 ええ。教会ではマズイ。お1人で。人目を忍んで。”

 ……やってこない事を祈りましたよ!なのに!あの愚か者はやってきた!!」



 「…ブルック…!」









あの夜。



サンジーノはひとりでやってきた。



もしかしたら、人目を避けた服装で来るかと思っていた。



だが、サンジーノは、黒いコート姿の、いかにも「ドン・サンジーノ」の姿で現れた。





 『ブルック、伝言てのはなんだ?』

 『………。』

 『…ブルック…お前には本当に感謝している…。』



愚か者



人の虚言を疑いもしない





サンジーノは、ゆっくりとブルックに歩み寄ってきた。





 『この前は嬉しかった…楽しかったよ…。お前のお陰だ…でも、もうああいう事はしなくていい。』



 『…なぜ…?』









 『…逢いたくないと言うのですか?あれほど焦がれた方に…。』



 『逢えるものなら逢いたいさ…。だが、あの夜が最後と決めた…

 おれ達はもう…ただのゾロシアとサンジーノじゃねェんだ…。』



 『………。』



 『…ゾロシアに伝えてくれ…今でも愛してる…だから…ゾロの事は心配いらない

 …サンジの事も、全てお前に任せた…。』



 『………。』



 『おれ達2人で…親父達がそうして来たように…この街を守っていこう…。

 黄猿の野郎の好きになんざさせねェ…。』











 『…そうして…ゾロとサンジに全部譲ったら…その時は…笑って酒が飲めたらいいな…と。』



 『………。』



 『ブルック…。』



 『………。』



 『伝言てのは嘘だな…?』



 『………。』



 『…ブルック…!』



サンジーノが、その気配に気づいた時は遅かった。

背中から、2人の男に羽交い絞めにされ、一瞬に動きを封じられたサンジーノの胸に



 『………!!』



ブルックは、僅かなためらいも見せずに、銀のナイフをサンジーノの胸に突き立てた。

一瞬、驚いた顔をして、そして、悲しい目をして



だが



サンジーノは瞬間微笑んだ。



ゾロシアとサンジーノの罪は許されるものではなかった。



罰は受けなければならない。



だが、それは自分一人が負えばいい。



最も信じていたものの心を、傷付け続けたこれは  罰 ―――。







おお、嬉やこの剣



この胸



これがお前の鞘







 『……ゾ…ロ……。』







どちらを呼んだのか







白く、しなやかな体は、バルコニーの壁にもたれる様に崩れ落ちた。



金の髪が、顔全体を覆う。

蒼い瞳は閉じられ、二度と開かれなかった。











 『…よくやったな、ブルック。』

 『………。』

 『これで、バラティエは終わった。あとはロロノア。』

 『ヴェローナももうすぐ』







 『ボルサリーノに落ちる。』













 「ああ…!許してくださいどうか!!あの方を…お守りできなかった!

 あの方が、守ろうとしていたものを守れなかった!!お側にいる事もできなかった!!

 …何も守れないのならば、いっそ壊れてしまえばいい!!」



刹那。

爆発が起きた。



バンガローから火の手が上がる。



 「ナミさん!!チョッパー!!」

 「ルフィ!!ウソップ!!」



車の爆音。



 「ルフィ!!」

 「ナミさん!!」

 「ゾロさん!!余所見などさせませんよ!!ヨホホホホ!!」

 「…っ!!ブルック――!!てめェ!!」

 「……ヴェローナを売ったのか!!?」



今、わかった。



サンジを狙っていた集団の正体



 「黄猿に!!」



 「やっと、おわかりになりましたね…!どちらもなくなってしまえばいい!!ロロノアなど潰れればいいのです!!

 ドン・ゼフーノ亡き今、バラティエの名もいりません!!」



 「貴様!!」



 「ゾロ!!」

 「サンジくん!!」



声に、2人は振り返る。

轟々と燃え上がる炎。

転がる様にかけてくる4人。



 「ナミさん!!ルフィ!!」

 「ウソップ!チョッパー!無事だったか!!」



ウソップが黒焦げになりながら



 「どこが無事だァ!!?何があったんだよォ!!?」

 「……あれ?ブルック!?」

 「なんで、ゾロと戦ってんだ!?」



その時



銃声が響いた。

銃声などというかわいいものではない。

機関銃の音だ。

機関銃と短銃の音が入り乱れ、銃弾が雨の様に吹きすさぶ。



 「伏せろ!!」

 「だああああああああああ!!ナニナニ!ナンだ!なんなんだァァァ!!?」

 「あああああああああああ!!医者ァァァァ!!って、おれだ―――っ!!」



ゾロと背中合わせになりながら、サンジが叫ぶ。



 「…こんな形で…おれを殺したら全面戦争になるぞ…!!黄猿!!」

 「…かまわねェんだろうよ…!てめェを殺って…その後じっくりヴェローナを戴こうって寸法だ!」

 「その通りです…ついでに、実の子のあなたも始末できる…一石二鳥というやつで。」

 「…殺されやしねェ…!おれ達は、コルシカへ帰るんだ!!

 親父とお袋が、残った仕事片付けさせようって、手ぐすね引いて待ってんだからよ!!」

 「残念ですが、それは叶いはしませんよ!!」



黒服の男達が間合いを詰める。

相手は銃を持っている、ルフィの抵抗にも限界があった。



 「ゾロォ!!」

 「ルフィ!おれ達はいい!ナミ連れて逃げろ!!」

 「ちくしょおっ!!」



ルフィが歯噛みした時だ。



どんっ!と、凄まじい音をさせて、辺りが真っ白になった。

全員、目を眩ませ、思わず悲鳴を挙げる。



 「…な…!」

 「………っ!」

 「…目が…!」

 「…閃光弾…?」



轟く爆音。

この音は、聞いた事がある。



 「………!!」



一陣の風

眩いサーチライト



見上げたそこに



 「………!!」

 「うわ!!」

 「うおおおおおおおお!!すっげェェェ――――っ!!」



ルフィが歓声を挙げた。



NATO軍使用NH90

ゾロシアのヘリコプター。



車の爆音、銃声、怒号、いくつもの足音。



 「1人も生かして返すな!!」



叫んだのはギンの声。

ロロノアファミリーのソルジャー達だ。



 「…ギン…!!何でここへ!?」

 「ご無事で、サンジさん。……ブルックが使っていた履歴を追ったんでさ。

 こんな電波くらいワケありやせん。」

 「……ブルックを…初めから疑ってたのか……?」



ギンは、少し考えて



 「……ドン・ゾロシアは、ドン・サンジーノが亡くなった時からブルックを疑ってました。」

 「!!」

 「……ブルックしかいねェんですよ……あんな所へ、ドン・サンジーノを呼び出せるのは。」

 「………。」

 「………ご無事でよかったです。」



ギンは、有無を言わさずナミとウソップとチョッパーを小脇に抱え走りだし、待機していた自分の部下に3人を預けた。



 「サンジさんもこちらへ!」

 「…ゾロが!」



ゾロとブルックがいない!



 「ゾロ!!」



走りだすサンジとギン。



 「ルフィ!!」

 「サンジ!!ゾロはあっちだ!!」

 「ギン!ルフィを頼む!」

 「シ!ボス!!」



ギンとルフィは、敵を見据えて並び立つ。

ルフィが言う



 「おい、お前ェ強ェか?」

 「…試してみるかぃ?」

 「おっしゃあ!!」





















ゾロの部屋の窓から、ロビンはシャトーの方角を見つめていた。

フランキーは、食堂のテーブルでさっきからずっとワインを飲んでいる。

自らの造ったワイン、ベラ・ロッソを。



あれから数日。

ゾロから、1度も連絡はない。

ルフィも、ナミも、ウソップも、家族への連絡を入れてこない。



危険な目にあってはいないか。

それだけが気になる。



ルフィに、行ってこいとガープが言った日。

ガープは言った。



 『フランキー、ロビン…お前達が、スネに傷持つ身だという事は、お前達がここに来た時から百も承知じゃ。

 …じゃが、お前達はゾロを育てながら、それこそ身を粉にして働いた。働いて働いて…

 …そうして、こんな見事な赤を生み出した。ワインは、人の心を映す。

 その心に濁りがあれば、ワインはこんな美しい赤にならん。

 お前達の苦しみも悲しみも喜びも、全部この赤に…ゾロに…映しとられておるわ。』

 『………。』

 『行ってこいルフィ!!ゾロを迎えにのう!!』

 『おう!!ありがと、じいちゃん!!』



ゲンゾウもベルメールも、ヤソップもパンギーナも、同じ様に…。



だからこそ



巻き込みたくなかった



でも



 「…ゾロ…。」



“祈る”ということを、ロビンはしたことがない。

フランキーもだ。



神なんていない



けれど



祈るのなら



 「……サンジーノ…あの子達を守って……。」





 「ロビン。」





下から、フランキーの呼ぶ声がした。



 「風邪をひくぞ。……そろそろ降りてこい。降ろしてやる。」

 「…大丈夫…もう、痛くないわ…。」



窓を閉め、ロビンは階下へ降りてきた。



 「…私にも…もらえる?」

 「…ああ…。」



向かい合って座り、だが会話はなかった。

気持ちが沈んでいるためもある。

だが、それよりもあの無口な息子が、実は意外にも家族の会話を弾ませていた事を改めて知る。



ベルメールが、ノジコやナミを産んだ時の話をした時、

 ロビンは、ゾロを本当に自分が産み落としたかのような錯覚に捕らわれた。

ゾロシアに、手渡された子はサンジだったのに、思い出の中の自分の子は、

全部ゾロのそれに代わっていた。

辛い流浪の旅の中で、ゾロが、自分を初めて『ママ』と呼んだ時、本当に胸が腫れて痛いほどだった。

ロビンの母性を、ゾロが満たした。

ロビンの女を満たし、幸福を与えてくれたのはフランキーだった。



この土地で、本当に幸せで、ずっと忘れていた過去。

でも、どこまでも追ってきた過去。



ゾロの血を、自分たちの過去を、消す事はやはりできないのだろうか…。



ベラ・ロッソの中に潜む、僅かな苦味の様に…。





と



 「………!!」



電話が鳴った。

携帯ではない、自宅回線の電話。



ロビンは椅子を倒して立ち上がり、受話器に飛びつく。



 「ゾロ!!?ゾロなの!?」















答えがない。



 「ゾロ!?話せないの!?怪我をしたの!?ゾロ!?ゾロ!?」

 「ゾロか!?ゾロなのか!?それともサンジ…いや、ルフィか!?ロビン!!」

 「ゾロ!返事をして!私よ!!ゾロ!!」

 「ゾロ!どうした!?ゾロ!!」





















 『………。』



小さな、鼻で笑うような息遣いが聞こえた。



 「…ゾロ…?」



受話器を持つ手が震える。



 「………。」

 『………すっかり母親だな、ロビータ。』

























 「ゾロシア……!!?」



ロビンの顔が蒼白になる。

だが、なぜか両目から涙が溢れた。







裏通りの、モグリの売春宿





女は、私と、私より3歳年上の女と、2歳年下の女の3人。





毎日



毎日



毎日





男を受け入れない日はなかった。





シマの中で、勝手にそんな商売をしていた末端のチンピラの集団を、潰したゾロシア。



掟を破った連中を許さず、全員が殺された。

自分も、死ぬと思っていた。

目の前に積まれた死体が、穴の中に投げ入れられるのを見ながら、この一番上に自分が重なるのだと覚悟した。



それでもいい



もう



いいんだ





なのに



ゾロシアはそうしなかった。



暖かい部屋で、暖かい服と食べ物を与えてくれて、そして言った。



 『おれの為に、死ぬ気はあるか?』

 『………。』



どうせ死ぬなら



そんな死に方もいいと思った





うなずいたのは私1人。



でも、ゾロシアは他の2人を殺しはしなかった。











 「…ゾロシア…!?」



フランキーも、体を凍らせた。



 『…フランコもそこにいるのか?』

 「…ええ…。」

 『そうか。』

 「………。」

 『………。』

 「………。」

 『フランコに伝えろ。』

 「……はい。」

 『…よくもまぁ、あそこまで、可愛げのねェガキに育てやがって。』















プツン



ツー ツー ツー ツー























受話器が、音を立てて床に落ちた。

ロビンの両手は、顔を覆い、流れる涙を抑えるだけだった。







あの時



ゾロシアは背を向けたまま冷たく、『撃て』と言った。



だが、『殺せ』とは言わなかった。



崖下に落ちた後、痛む体を引きずって身を潜めた。

必ずその後に、銃弾の嵐が降って来るとわかっていたからだ。

それがファミリーのやり方だ。



だが、そのまま静かになった。





思い起こせばそうなのだ。





ゾロシアは、2人を見逃した。

そして



ゾロを託してくれたのだ。



生き延びると信じて。





















燃え上がるバンガローの火。

夜空を焦がし、炎は湖畔の森を焼いていく。

遠くから、サイレンの音がする。

警察と消防のそれが、幾重にも重なる。



刃の交わる音。

怒号と、草の鳴る音。

幾重にも絡まる銃声と爆発音。

唸るローターの回転音。



 「ゾロ!!」



サンジの声が響いた。



 「許せねェ…許せねェ!!ブルック!!」

 「…あなたに、ワタシを許す資格はありません!!」



狂うほどに、ゼフーノに心酔したブルックを、利用した奴が許せない。



父達が必死で、守ろうとしたものを、奪おうとする奴が許せない。



それを知らず、動かされてきた自分が許せない。



必死に剣をふるいながら、ゾロの息は次第に上がっていく。

戦うことなど知らないでいた身で、よくぞここまで戦えると思う。

ギンの言う通り、真剣は重く、木刀の様にはいかない。



だが、許せない!



 「ヨッホホホホ!!そろそろおしまいですか!?」

 「…誰が!!」



剣の間合いに入れない。

サンジは歯噛みするしかない。



 「ゾロ!!」



再び、どこかで爆発が起きた。

叫声が上がる。

NH90が、サンジの頭上を掠める様に低く飛んだ。



 「…ごきげんよう…ゾロシアの息子…!お行きなさい!地獄へ!!」

 「………!!」



振りかぶられたサーベルを、避ける動きができない。



一瞬よぎったのは口惜しさだった。

サンジの声が、はっきりと聞こえた。

ロビンとフランキーの顔が、一瞬瞼をよぎる。



 「ゾロォォ!!」



サンジの叫び







と







その銃声が轟いたのは同時だった。







来ると思った衝撃はなかった。



ゾロが、とっさに自分を庇った腕を下ろすと









ゆっくりと、地面に倒れるブルックがいた。









 「………!!」



倒れながら



ブルックの目に涙が溢れる。





 「………ああ……神よ……。」









 「……ワタクシには……ドン・ゼフーノ……あなたこそが……。」









 「……我が……神……。」











細い体は地面に倒れ、そのまま湖への斜面を転がり、水際で止まった。



 「………。」



ゾロは、『それ』をじっと見つめた。

『それ』が、自分を救ったのはわかっている。

だが、『それ』は、今、ゾロ自身の頭部に照準を合わせて突きつけられている。



黒く、重い銃口。



ゲキ鉄のない、自動小銃。

こんな間近で、本物の銃を見るのは初めてだ。

指は引き金にかけられたまま、真っ直ぐに、それはゾロの眉間を狙っていた。





 「……父さん……。」





 「………。」





サンジが呼んだ。







ドン・ゾロシア







遺伝子の



ゾロの父親







 「ゾロ!!」



ルフィの声がした。



 「ゾロ!」

 「あわわ!ゾロォ!!」

 「…わ…!ドン・ゾロシア!!」



ルフィ、ナミ、ウソップ、チョッパー。







ドンッ!!





思ったよりも鈍い音。

口径の大きい銃独特の、重い発射音。

と共に、ゾロの頬を血が滴り落ちていった。



 「ゾロォ!!」



ルフィが叫ぶ。



 「父さん!!やめてくれ!!」



 「………。」





ドンッ!



ドンッ!



2発。



銃弾はゾロを掠めて、地面に突き刺さった。

サンジが転がる様に走り寄り、ゾロを抱え、地面に伏した。



だが、ゾロシアはかまわず



 「止めろ!!」

 「止めてェェ!!」

 「ゾロォォォォっ!!」



ドン! ドン! ドン! ドン!



こういう銃には、こんなに弾が入るのか。痺れる脳でゾロは瞬間思った。

自分を抱きしめ、体全部で庇うサンジの腕を、しっかりと握る。







かちっ







乾いた音がした。



だが、ゾロシアは銃を降ろさず、じっと、地面に伏せた2人を見下ろす。





と、



ゆっくりとサンジが顔を上げた。





苦痛に歪んだ眉。



潤んだ瞳





同じ顔を、この湖で見た。







突然、ゾロの体が跳ねた。

跳ね起き、そして





 「ゾロ!!」

 「………!!」

 「ドン!!?」









 「………。」





ゾロシアの喉元に、突きつけられた刃。



駆けつけたギンが、その光景にトンファーではなく、銃を構えた。

だが



ゾロシアはそれを制した。



 「……斬っていいぞ。」

 「………。」

 「どうした?殺れる時に殺らないでどうする?」

 「………。」



サンジは、ただ目を見開くしかない。



 「…ゾロ…。」

 「………。」

 「…やめてくれ…。」

 「………。」

 「……その人は……。」







サンジは、微笑んで





 「…おれの父親なんだ…。」







 









(2009/5/22)



NEXT



BEFORE

Bello Rosso TOP



NOVELS-TOP

TOP