BEFORE




「この海域の海軍は、あまり海賊退治に熱心ではない様ね。」



港の、この島の造船ドックのひとつに、サニー号は係留されていた。

サニー号に乗り込み、花を満開に咲かせて全ての封印を勝手に剥ぎ取りながら、ロビンが言った。

ナミが答えて言う。



 「……そういう海軍もいるわよ。」



かつて、そういう島で育ったナミだ。



 「だから自警団を作って、島を守っている訳か。」



ウソップのつぶやきにチョッパーが



 「…あの執事さんが言ってたけど…懸賞金の低い海賊なら出動してくるんだって…。」

 「…何が絶対的正義だ…反吐が出る。」



サンジがつぶやいた。

ルフィが、パン!と拳を打った。



 「一宿一飯の恩義、ってヤツだ!!しししっ!!ケンカ、久しぶり!!やるぞぉ〜〜〜〜〜!!」

 「みんな!位置に着いて!!ゾロ!ブルック!キャプスタン、まだ!?」

 「オッケーです、ナミさん!!」

 「出せ!フランキー!!」

 「オッケーぃ!!ス――――パ―――――っ!!」

 「って、おいおい!ドックのシャッター開いてねェぞォ!!?」



ウソップが悲鳴を挙げた。



 「ゴムゴムのォ!!―――JET銃(ピストル)!!」



大音響と共に、ドックを閉ざしていたシャッターが吹き飛んだ。

チョッパーが嬉しそうに



 「サニー号、発進―――!!」

 「発進って。」

 「ウソップ!!カタパルトへ!!」

 「ぃよぉ〜〜〜〜〜し!!エネルギー充填120%ォ――!!」

 「ヤ○トか!!?」



サニー号が、いきなりの全速力で港へ出ていくと、素早い動きで黒い船が横に並ぶ。



 「…ヒルドさん…!」



ブリュンヒルドの旗艦『ヴァルキリー』だ。



 「お前達…余計な手出しをするな!!海賊に手を借りることなどしない!!」

 「…かぁー…どこまでも頑固な女だな。」



フランキーがつぶやく。



 「ヨホホホホ!!誇り高い女性です!ゼヒ、パンツを見せていただきたい!」



ナミの鉄拳。

するとルフィが、サニーの頭の上から叫ぶ。



 「余計な手出しなんかしねェよ。」

 「………。」

 「おれ達が、勝手にケンカがしてェだけだ!!」

 「……貴様……。」

 「海賊だからな!!…勝手に行くぞ―!!」

 「…待て!!モンキー・D・ルフィ!!」

 「待たねェ!!じゃぁな!!」



サニーの上から甲板に降り、ルフィがゾロへ



 「ゾロ。」

 「おう。」

 「あいつら邪魔。」

 「了解。」



それ以上の言葉など要らない。

ゾロは、すっと歩み出て、和道一文字を抜き払い。



 「!!?」



『ヴァルキリー』に向かって大きく跳躍する。

再び、ゾロがサニーの甲板に降り立った瞬間



 「うわぁぁあああああ!!!」



『ヴァルキリー』から悲鳴が挙がった。

2本のマストが、中央から真っ二つに斬られて倒れ、海へと落ちた。



 「………!!!」



船が、大きく傾ぐ。



 「お嬢様!!」

 「…大丈夫だ…!!…おのれ、海賊ども!!私の船を!!」

 「んじゃぁな〜〜〜〜〜〜〜。」

 「……っ!!」



楽しげなルフィの声を波間に残し、海賊船サウザンド・サニー号は、湾の入り口に向かって進んでいった。



 「機雷原に引っかからなかったのかしら、あいつら。」

 「どうやら、上手い具合にすり抜けたみてェだぜ。」

 「つーか、おれ達がほとんどぶっ飛ばしちまったからじゃねェの?」

 「……そーともいうわね。」



それはこっちに置いといて。

と、ナミは船首にいるウソップに



 「ウソップ、海賊旗は見える?」

 「ん〜〜〜〜〜〜!見えてる。けど、見た事ねェ旗だな。」

 「…さて、こちらの海賊旗を見て、どういう反応をするか…。」



サンジが言った。

ブルックが肩をすくめる。



 「『麦わらの海賊旗』ですからねェ。」

 「誰だっていいさ。向かってくるならぶっ飛ばすだけだ!」



ルフィが拳を鳴らした。



と



 「ヨホホホーっ!!撃ってきましたァ!!」



ブルックの叫びに、ゾロがにやりと笑う。



 「そうこなくっちゃな。」

 「うわ、悪うれしそー。」



チョッパーがつぶやいた。



 「戦闘開始だ、野郎共ォ!!」

 「おおーっ!」



相手の海賊船。



 「どういう巡り合わせかしらねェが!麦わらの首を獲れば、おれ達ゃあ一躍名を馳せて『新世界』へ繰り出せるってもんだぜ!!

 てめェら!!麦わら一味の誰か一人でも首を獲りゃあ、どんだけの悪名が世界に轟くか想像してみろ!!ゾクゾクするぜェ!!」

 「うおおおおおおおっ!!」





 「お客さん、やる気満々よォ!!ルフィ!!」

 「よっしゃあ!!行くぞォ!!ゴムゴムのォ――!!ライフル!!」



激突音。



港に轟くその音に、誰もが首をすくめた。



過去、ブリュンヒルドの母親を奪われる前も後も、何度この島は同じ恐怖に苛まれてきただろう。



海賊は忌むべき悪魔であり、憎むべき敵だ。



その海賊に



 「……セバスチャン!!船を出せ!!代わりの船を!!」

 「いけません!お嬢様!!」

 「黙れ!!」

 「いけません!!お分かりにならないのですか!?」

 「何をだ!?」

 「……あの激戦の只中にお嬢様が出て行っても、彼らの足手まといになるだけでございます!!」

 「………!!」



ブリュンヒルドは歯噛みし



 「…海賊などに…海賊などに!!」

 「お嬢様…!!」







 「三刀流……龍巻―――――!!」



 「反行儀作法―――キックコォ――――ス!!」



 「六輪咲き(セイスフルール)……クラッチ!!」



 「刻蹄――!!桜並木(ロゼオミチェーリ)!!」



 「ストロングライトォォォ!!」



 「サンダーボルトテンポ――!!」



 「鼻歌三丁……矢筈斬り!!」



 「火の鳥星―――!!ついでにタバスコ星12連射―――っ!!」



挙がる悲鳴、うめき声、断末魔。

名も無いチンピラ海賊団が、適う相手ではない。



 「畜生――!誰だァ!?この島は襲い放題だって言ったヤツはァ!!?」





 「ギア3!!」



ルフィが、指を噛む。



 「ゴムゴムの―――――巨人(ギガント)――――――-!!」



 「うわああああああ!!助け……!!」





敵を見据え、ルフィが叫ぶ。



 「この島はおれの縄張りだ!!これから先、手ェ出したらタダじゃおかねェ!!」



 「わわわわわわ、わかりましたぁ!!だから、助けて…!!」



 「戦斧(アックス)―――――!!!」



 「ぎゃあああああああああ!!」







爆音を響かせ、白煙と波飛沫を上げて、海賊船が海の藻屑となる様は港の突堤からも見えた。

島の人々が歓声を挙げ、襲撃を回避できた喜びに沸く。

その中で、ブリュンヒルドだけが表情を暗いものにして、肩を落とした。



サニー号が桟橋に着くと、島民たちが一斉に感謝の言葉を述べに集まってきた。

歓声の中、ルフィ達はもみくちゃにされながら、ブリュンヒルドの前に立つ。



 「………。」

 「船、悪かったな。」



けろりと、ルフィは言い



 「フランキー、直してやってくれ。」

 「心得た。」

 「おれも手伝う。」



ウソップが、フランキーを追いかける。

チョッパーとブルックも手伝うと言って、一緒にドックの方へ歩いて行った。

後を、島の子供たちが追いかけていく。



 「……縄張りと言ったな。」



ブリュンヒルドが言った。



 「ああ、言った。」

 「そんな事は許さない…!」

 「うーん。」



ルフィが、『縄張り』などという言葉を口にしたのは初めてだった。

あの瞬間、仲間もみな驚いた。

だが、『麦わらのルフィ』の息のかかった島となれば、他の海賊はおいそれと手を出せなくなる。



 「……礼など言わぬ……。」

 「おう、別にいーぞ。そんなもん言ってもらおうと思って、ケンカした訳じゃねーし。」



鼻くそをほじくりながら答えるルフィを、ブリュンヒルドは曇った目で見つめるしかない。











記録(ログ)が貯まるまで、まだ3日を残している。

『ヴァルキリー』の修理にも、3日はかかるとフランキーは言った。



今では島の英雄。

麦わら海賊団はまた、ブリュンヒルドの屋敷に戻ってきた。

館の使用人達からも今度は大歓迎を受け、その晩はルフィも満足な夕食を頂戴した。

だが、ブリュンヒルドは、夕食の後不機嫌にナプキンを置くと、それっきり部屋に籠ってしまい姿を見せなかった。

次の日の朝食も、昼食にも、姿を見せない。





その午後



 「あれ、サンジは?」



ドックから戻ってきたチョッパーが、サロンのソファに寝転んでいるゾロへ尋ねた。



 「おれに聞くな…。」

 「ルフィと一緒かなぁ。」

 「………。」

 「…なァ…ゾロォ…。」

 「あァ…?」

 「…遺伝子解析…してみようかって言ってもいいかな…?」

 「止めとけ。」

 「…やっぱり…?」

 「それをやって、結果がどう出ても…あいつは何も変わらねェ。」

 「でも…でも、お姉さんかもしれないんだよ…。」

 「………。」

 「…それに…サンジはそうかもしれないけど…ヒルドさんは…。」

 「………。」

 「…サンジと同じ顔で…あんなに苦しそうにされたら…おれ…。」



ふと、ゾロが立ちあがった。

チョッパーの頭を撫で



 「好きにしろ。」

 「………。」



自分達を避けているのはブリュンヒルドの方だが、サンジも、明らかにブリュンヒルドを避けている。

なるべく、一緒にいる時間を作らないように、館に逗留しながらも、サニー号の中にいる事が多かった。

今、サニー号は港のドックではなく桟橋に停泊している。

サンジは今も、ひとりでサニー号の食糧倉庫の整理をしていた。

滞在期間あと3日。

明日は、本格的に買出しに行こう。

そう決めて、買い物メモを作る。



と



 「……てめェか……。」



食糧倉庫の戸を開けて、黙ってそこに立っている人影にサンジはつぶやくように言った。

相手の顔も見ないまま。



 「チョッパーが探してたぞ。」

 「…何か用か?」

 「…てめェとあの女が、姉弟かどうか調べてやってもいいかとおれに聞いた。」

 「…必要ねェ…。」

 「…てめェはな…チョッパーが言ってんのはあっちの方だ。」

 「………。」

 「…ルフィが言ってたぜ、あの女の頑固さは、バラティエ時代のてめェに似てるってよ。」

 「勘弁してくれ…。」

 「………。」

 「…感づいてるんだろ…てめェ。」



サンジの言葉に、ゾロは息をつく。



 「…彼女に…全然ときめかねェ…。」

 「………。」

 「…自分の顔にときめくなんざ、とんでもねェナルシー野郎だ。けど…違う気がする…。」

 「………。」

 「…そう…なのかもしれない…。」

 「………。」

 「…でも…そうであっちゃいけねェよ…。」

 「………。」



メモを置き、サンジは咥えた煙草の火を消した。



 「………来い、ゾロ………。」



白い指が、ネクタイを緩める。



 「………。」



 「…今、おれに余計な考え事をさせた罰だ…。」



 「………。」



 「…おれを…めちゃめちゃにしろ…。」



 「そうされねェと不安か?……だったら断る。」



 「…不安じゃねェよ…。」



 「………。」



 「……例えそうだったとしても…おれはこのままみんなと行くんだって確信してる…ちっとも揺れてやしねェ…

 自分のそんな想いが嬉しいんだ……なのに、余計な事を言っておれに余計な事を考えさせやがって…

 …憎たらしいヤツだよてめェは……だから…罰だ………。」



 「………。」



無言で、ゾロは刀を下ろした。







不安なのは





おれか







心の中で呟いて、ゾロはサンジの肩と腰に手をまわした。

口付けながら、床の上に押し倒す。





開け放ったままのドアの向こう側から、夕暮が近づく。

オレンジ色に染まった互いの顔に、何度も唇を滑らせる。

はぁはぁと、すぐに息は荒く小刻みになり、漏れる吐息は甘く切ない。

大きく反らされた白い首筋。

ゾロは激しく舌を這わせる。



 「…はぁ…っ…ん…っ…。」



自分の髪を探りながら、さらに強くとせがむように引き寄せる指先が熱い。

感じて、熱くなるものを押しつけるように腰をくねらせて、低く呻くようにサンジは息を漏らす。

シャツを脱ぎ捨て、誓いの傷の胸へ、サンジをさらに引き寄せ抱きしめる。



 「…脱ぐ…おれも…。」

 「…脱がせてやる…。」



直に、ゾロの肌を感じたい。

焦らす様なゾロの指先に、サンジは首を振る。



全てのボタンを外して、両手を滑らせる。

そのまま肩への線を辿り、肩から、スーツのジャケットごと滑らせると、サンジは大きく震えた。

乳首はすでに固くなって、ツンと上を向いている。



 「…ひ…ゃ…あ…ん…っ!」



右のそれを歯で軽く噛み、左のそれを爪で摘む。

そのまま舌で愛撫しながら、ゾロは固く、熱い半身をサンジの同じ部分へぐいぐいと押しつけた。



 「…ズボン…下も…脱がせて…。」

 「…もちっと待て…これも悪くねェ…。」

 「…ヤダ…直に…なァ…直接…触って…。」

 「……待て…。」

 「…やぁ…。」



本当は、不安なのはサンジの方だろう。



もし、自分が彼女の弟だったら―――。



ゾロの中に沸き起こる黒い念は、嫉妬に似ていた。

美女を見ればすぐに鼻の下を伸ばし、目をハートにして恋を囁くラブコックが、あの女領主にはまったくその素振りを見せない。



サンジ本人が言うように、自分自身の顔に愛を囁くのは、傍から見ればギャグ以外の何ものでもない。そんな理由もあるだろう。



だがそれが、体内に流れる血がそうさせているのだとしたら…。



赤の他人なら、いくらだって奪い返せる。



相手にどれほどの労わりと情愛を見せても、サンジは必ずゾロの腕の中に戻ってくる。



おれだけのもんだ。

誰にもやらねェ。



だが、血の繋がりというやつは―――。



ゾロの3本の刀でどれほど切りつけようと、容易く断ち切れるものではない。



2人が、姉と弟だと言われれば、誰もがそれを納得するだろう。

全ての事実に辻褄が合い、互いに惑い、混乱している。



真実だったら



おれは



 「…コック…!」

 「………。」

 「…コック…コック…!!」



切ないゾロの声に、サンジは微笑む。



 「…なんだよ…なんでお前の方が困ってんだ…?」

 「………っ!!」



バラティエから、攫うように連れて来た。



恋焦がれるルフィから、力ずくで奪った。



この青い瞳に、自分だけを映させるまでどれだけかかったか。



素直に



 「…ゾロ…好きだよ…。」



この言葉を聞けるようになるまで、おれがどれだけ…!!



 「……ゾロ…ゾロ……イイ……すご…お前…今日…なんかすげェ……。」



いきなり現れて、それだけで、こいつにとって一番身近な人間になろうなんて許せねェ!!



 「…く…ん…ぁあああぁっ…!!」



脱がさないままイかせた。

蕩けた目が、ゾロを睨む。



 「…アホ…ぅ…。」

 「………。」

 「……てめェので…イきたかったのに……っ…。」

 「…これで終わりじゃねェよ…おれはまだイってねェ。」

 「………。」



サンジの手が、ゾロの首に絡みつく。

ベルトを外し、ファスナーを下ろして、中へ手を滑り込ませる。

たった今、絶頂を迎えたそれで、前はぐっしょりと濡れていた。

その液体を、震える陰茎にこすりつけ上下に扱く。



 「…脱がせろよ…気持ち悪ィ…。」

 「…気持ちイイ…の間違いだろ…。」



サンジは汗に濡れた髪を震わせ、わずかに首を振る。



 「…ん…?」

 「……繋げろよ…ゾロ……。」

 「………。」

 「……繋げなきゃ…不安なら…いくらだって繋がっていてやる……。」

 「………。」

 「……おれは…オールブルーへ行くんだ……お前と…ルフィと……。」

 「………。」

 「…何も変わらねェ…なのにてめェは…!」

 「……!!」

 「おれはおれだ…!!今さら、他のものになんかなるか!!」



自分自身に言い聞かせるような叫び。



一気に下着ごと剥ぎ取ると、再び固くなったものが弾かれる様に天を突いた。

その足を思いっきり左右に裂いて、猛る己をあてがい遠慮なく貫く。



 「…ぃ…あぁぁああああっ…!!」

 「おれのだ…!誰にもやらねェ!!」

 「…あ…ぁあ…っ!」

 「…サンジ…っ!!」

 「…ゾロ…ゾ…ロ…っ…繋げろ…もっと…深く…。」

 「………っ!」

 「…もっと…深く…もっと奥…で…。」

 「……奥…で……?」

 「…血なんかより…お前のものの方が…おれにはずっと…濃いんだから……っ…!」

 「………。」

 「……奥まで…いっぱいにして……お前で…おれの血を染めてくれ……。」





愛しい



愛しい 愛しい





この想いがあればそれでいい。

揺らぐ理由になどならない。





 「…っ…は…ぁ…っ!…あああ…っっ!!」











夕焼けが通り過ぎ、群青の薄闇の中、静かに影が崩れ落ちる。



 「……あ……。」



サンジが小さく声を挙げた。



 「………ナノハナホタル………。」



 「………。」



ふわり ふわり



舞う光が、ゾロの髪に降りる。



 「…ははっ…草むらと間違えてら…。」



 「ほっとけ。」



 「…星が…降ってくるみてェ…。」







綺麗だ







そうつぶやいて、サンジは目を閉じた。





(2010/2/23)



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